ECBは政策金利のマイナス幅を実質的に拡大 真のバズーカは銀行がお金をもらえるTLTRO3

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今回の結果を受けて考えさせられるのは「政策金利とは何か」ということだ。主要リファイナンスオペ金利(ゼロ%)や預金ファシリティ金利(マイナス0.50%)といった政策金利は今や各種資金供給の適用金利を設定する際の基準でしかない。

もちろん、基準は重要に違いないが、「政策金利をどう修正して資金供給するか」がECBの議論の中で小さくない部分を占め始めているように感じる。すでに見たように、TLTRO3の優遇金利は最大で「預金ファシリティ金利(マイナス0.50%)+マイナス0.5%」だ。政策金利と同じ幅が優遇措置として付けられており、これ以上の優遇をするには政策金利よりも大きな幅を付けることになる。もちろん、そうすることが悪いという話にはならないが、政策金利が当該通貨圏における「基準」金利であることを思えば、体裁上、違和感は残る。

実質的に影響を及ぼす「影の政策金利」に注目

ちなみに4月30日の政策理事会では短期金融市場の安心感を醸成するための資金供給策としてパンデミック緊急長期流動性供給(PELTRO)もラインナップに加えられた。これは8~16カ月というTLTRO3に比べれば短期の資金を供給するスキームであり、適用金利は「主要リファイナンスオペ金利(ゼロ%)+マイナス0.25%ポイント」と優遇幅はTLTRO3よりも劣後するが、やはり「必ずお金がもらえる仕組み」になっている。なお、TLTROとは違い、PELTROは貸し出し実績を気にせず利用することができる。

これらの「必ずお金がもらえる仕組み」を通じて欧州系銀行のリスク許容度は改善され、金融仲介機能が円滑に働くことが期待される。それは結果的に、域内企業の資金繰りを支援することにもなる一方、当然、金利減免(お金がもらえること)はマイナス金利の副作用緩和にもなるはずである。

なお、貸し出し実績を達成することにこだわらないのであれば、マイナス金利で仕入れた資金で債券投資をすればキャリー取引も奏功するかもしれない。過去を紐解けば、中銀資金を使ったこの種の取引は批判にさらされており、その批判に応えて登場したのがほかならぬ貸し出し実績を重視するTLTROだったわけだが、現状では黙認される可能性が高いだろう。

今後もECBの政策運営をめぐってはマイナス金利の深掘りの可否が断続的に話題となるだろう。しかし、そうした「表向きの政策金利」とは別に、「資金供給の適用金利」にどのような創意工夫を施すのかという着眼点も重要になるように思われる。それはさながら「表向きの政策金利」に対して「影の政策金利」ともいうべきもので、今後のECBウォッチの世界で重要な視点になるように思われる。

※本記事は個人的見解であり、筆者の所属組織とは無関係です

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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