ECBは政策金利のマイナス幅を実質的に拡大 真のバズーカは銀行がお金をもらえるTLTRO3

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TLTRO3の利用条件は破格だ。ドラギ元ECB総裁時代に導入された枠組みだが、この利用条件は徐々に緩和されてきた経緯があり、2020年4月30日の政策理事会で基準金利が「主要リファイナンスオペ金利(現状ゼロ%)+マイナス0.5%ポイント」に設定され、貸し出し基準を達成した場合は最大で「預金ファシリティ金利(当時はマイナス0.50%)+マイナス0.5%ポイント」の優遇金利が適用されるという制度設計になった。

すなわち、貸し出し実績を積まなくてもお金を借りれば0.5%の金利が金融機関の懐に入る。貸し出し基準を達成すれば1.0%の金利がもらえる。こうした「必ずお金がもらえる仕組み」は実質的には政策金利と同じくらいの存在感を放っているようにも思える。

なお、優遇金利を与えるための貸し出し実績の判定も緩くされている。3月12日時点では貸し出し実績について「2020年4月1日から2021年3月31日の増加率がゼロ%以上」と今後1年間の動きに応じて優遇幅が決まるとされていた。しかし、4月30日には「2020年3月1日から2020年3月31日の増加率がゼロ%以上」に変更された。

つまり、「悲観の極み」にあった今年3月中に貸し出しを増加させた銀行を優遇するという設計に変わったのである。今回の入札結果はこの条件緩和後、初の入札であったわけだが、ECBの思惑は相当程度、奏功したように見える。ただ、優遇金利の恩恵が経済にどう波及するかはこれから見極めることになる。

巨額の資産購入規模を凌駕した巨額のTLTRO3

上述のとおり、TLTRO3におけるネット供給額は5400億ユーロを超える。市場参加者やメディアのヘッドラインは資産購入の規模や中身に注目しがちだが、今回の供給規模は3月以降に実施されてきたECBの資産購入総額よりも大きい。

資産購入実績を確認すると、最も耳目を集めるパンデミック緊急購入プログラム(PEPP、3月18日に導入)は6月12日時点で約2870億ユーロ。これに加え、もともと存在した拡大資産購入プログラム(APP)が同期間に約1300億ユーロ購入されている。現在、ECBの金融緩和の2本柱とも考えられているこれら2つの枠組みで購入された債券の金額は合計で約4170億ユーロであり、今回のTLTRO3のネット供給額はこれをさらに1000億ユーロ以上上回る。

単純にバランスシート拡大への寄与という意味ではバズーカと呼べるのはPEPPでもAPPでもなくTLTRO3だったと解釈できる。

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