「あるライターさんのトークイベントに行ったとき、同じ会場にいた女友達が義行さんと仲良くなったんです。友達は既婚なので、『独身男がいたぞ!』と私に報告してくれました」
義行さんはまさに「1人でいることが好きだけど誰かと一緒でも楽しくお酒が飲める」男性だった。下町の住宅地にある元居酒屋兼住居という一軒家を借り、月に2、3回ペースで酒好きの友人知人を集める「居酒屋ごっこ」をしていたのだ。
もちろん、瑠璃子さんはその秘密の居酒屋に通い始めた。義行さんとは好きな歌手まで一致して、濃い目の顔立ちにも好印象を持った。すぐに2人きりで飲みに行き、「あなたのことを気に入っている」と瑠璃子さんは伝えた。いいリズムだ。しかし、それは今から5年も前のこと。いったい何をしていたのか。
「私が軽く告白したとき、彼は黙っちゃったんです。ガーン、脈なし!と思って諦めました」
相手の気持ちを察知し、付き合おうよと提案
2人きりで会うことはなくなったが、飲み仲間としての関係は続いた。瑠璃子さんは「やっぱりこの人といると楽だな」という思いを深め、同時に「彼は私のことが好きなのでは」と感じ始めた。
「みんなといるときもたまにじっと見られるし、私にだけいじわるなことを言ってきたりするからです」
われわれ日本人の場合、こうした男女関係の機微は小学校時代から変わらないと思う。好意をスマートにわかりやすく伝えるのが下手なのだ。ならば、こちらが相手の気持ちを察知する能力を高めなければならない。
瑠璃子さんと義行さんはまた2人で飲みに行くようになった。そのうちに瑠璃子さんがしびれを切らす。
「いい加減に付き合おうよ、と提案しました。でも、彼はまごまごしているんです。自分には結婚願望がないのでいずれは結婚したいと思っている私と付き合うのは問題があるとかないとか、グズグズ言っていました」
今度は瑠璃子さんは諦めなかった。結婚のことは棚上げして、「とりあえず付き合いましょう」と宣言。2年後、義行さんが愛する元居酒屋兼住居の家賃が2万円も上がることになり、それを機に引っ越して2人で住むことにした。
「同棲することにもグズグズ言っていました。『その気がないなら終わりにしよう』とまで迫ったのは私です。私が動かないとどうにもならない、と思ったので」
1年後に結婚するまでも紆余曲折があった。しかし、危篤状態で入院していた瑠璃子さんの父親に会ったあたりから義行さんの気持ちは固まったらしい。5年もかけた瑠璃子さんの「じわじわ説得」作戦が実を結んだ瞬間である。
「結婚してからは落ち着いたのかとても楽しそうです。私が『結婚したくないとかグチグチ言ってたよね』といじると、『その話はもうやめてよ』とスルーして、独身の友達を心配したりしています。どの口が言っているのかと思いますね(笑)」
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