東大大学院から6年半ひきこもった男性の葛藤 学力と幸福について、今思うこと

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それと、これはひきこもりを抜けだして3年ほどが経ってからですが、ひきこもり向けの「オンライン当事者会」の存在を知ったこともよかったです。

ひきこもりの当事者や経験者が運営している、ビデオチャットの集まりです。「Zoom」などで開催されているのですが、匿名で気軽に参加できるのがよいです。

「ひきこもり当事者向け」とか「発達障害者向け」とかの種類がありますから、事前に参加者の属性がわかるのも、話しやすくなるポイントです。

雑談をして笑えるのは、すごく楽になる時間でした。

学力は幸福の保証にならない

――その後はどのような生活をされましたか。

いくつか仕事をしてきたのですが、よい人生経験になったと思うのは、塾講師の仕事です。

講師になったとき、始めは「どれだけ生徒の点数を上げられるか」に専念していました。うまく勉強を教えることで、生徒の役に立とうと思っていたんです。

だけど生徒のなかには、点数が上がったのに、うれしそうにしていない子がいました。第1志望の学校に受かっても、しんどそうにしているんです。

反対に点数は悪くても、すごく楽しそうにすごしている子もいました。そんな姿を見ているうちに、生徒との関わり方がどんどん変わっていったんです。

教科書を丁寧に教えることはもちろんですが、生徒の心の動きに、より気を配るようになりました。心理面への気づかいを心がけることで、授業も活発になります。

信頼関係が深まったためか、結果として成績の上がる子もいました。「いくら学力があっても、幸福になれるとはかぎらないんだ」と実感する出来事でした。

塾講師をして僕自身が学ばせてもらったのは、「いろいろな人がいる」ということでした。

当たり前かもしれないですけど、すべてが完璧な人なんていないんですよね。塾に来る子を見ても、人間関係で悩んでいる子や、いわゆる発達障害の子もいます。

言い方は悪いかもしれませんが、みんながどこかにいびつさを抱えています。僕はこれまで、「完璧な人間」みたいなものがあると思っていて、それを求めてきたようなところがありました。

だけど実際にはいろいろな人がいて、それぞれの生き方を模索している。僕はそのことが見えていなかったように思います。

――石井さんにとって、ひきこもりの経験はどのようなものでしたか。

ひきこもっているときは、「自分は遠まわりをしている」と思っていました。「大学を卒業する」という正しい進路から、はずれたと思い、劣等感を抱えていました。

だけど、今の僕が思うのは「進む道は人の数だけある」ということです。「遠まわり」というと、ほかの誰かと同じゴールを目指すイメージですが、そもそも誰もが別々の道にいて、別々の結果にたどり着くものなのだと思っています。

人から見ると、僕は「正道」とされるエリートコースを進んできたのかもしれません。だけど苦しい時間が長くて、「全然正しい道ではなかった」と思っています。

正しいひとつの道があるわけではなく、結局は、自分の道を行くほかないんですよね。

僕は長いあいだ、ぐるぐると歩きまわってきましたけど、これも自分の道筋です。ひきこもっていた経験も、まちがいではなかったのかもしれません。

――ありがとうございました。

(聞き手・酒井伸哉)

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日本で唯一の不登校専門紙です。不登校新聞の特徴は、不登校・ひきこもり本人の声が充実していることです。これまで1000人以上の、不登校・ひきこもりの当事者・経験者が登場しました。

また、不登校、いじめ、ひきこもりに関するニュース、学校外の居場所情報、相談先となる親の会情報、識者・文化人のインタビューなども掲載されています。紙面はすべて「親はどう支えればいいの?」という疑問点から出発していると言えます。

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