コロナ「危険手当なし」医療従事者が抱える不安 イギリスの医療用防護服はノースリエプロン

✎ 1〜 ✎ 371 ✎ 372 ✎ 373 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

とくに収入の高さゆえに多額の年金を天引きされる事に辟易した医師など、高所得のNHS職員に多い。これらの職員の家族にとっては受け取れるお金は政府からの見舞金だけになってしまうリスクがある。

医療従事者が置かれる環境は非常に厳しい一方、地域に根付いた医療従事者向けのボランティアやサポート、応援は心の支えとなっている。

スーパーや飲食店によるサービス

例えば、イギリスの多くのスーパーは毎朝、開店時間の30分から1時間前にNHSの職員IDカードを持っている人の入店を認めている。これはロックダウン初期に人々のパニック買いが社会問題となっていた頃、ICUに勤務するあるNHS看護師が、「長時間勤務を終えてスーパーに買い物に行ったら棚が文字どおり空っぽだった」と、SNSで涙の訴えをしたことがきっかけとなった。

筆者自身も経験したことがあるが、ロックダウン中普通の人は好きな時間に好きなだけ買い物ができるが、危険な仕事に従事している人々はパン1つ思うように買うことができないのである。

スーパーによっては、NHSの職員であれば10%割り引きしてくれる店もある。日常品を買う店でこのサービスは庶民のNHS職員には大変ありがたい。割り引き以上にうれしいのが、NHSのIDカードを出すときに言われる「いつもありがとう!」との言葉だ。

飲食店によるサービスもある。ロックダウンで経営が厳しいにもかかわらず、病院には近辺の店から、ピザ、カレー、総菜と毎日のように差し入れがくる。新型コロナの治療に専念する専門病棟で勤務を始めた最初の頃は弁当を持参していたが、ここ1カ月以上は差し入れの食事をありがたくいただいている。時にはケーキやフルーツといった差し入れも。

また、院内のカフェは職員に無料でコーヒーを提供してくれるし、地域のボランティアが院内に大型テントを立て、時にパンやビスケット、ケーキなどを配布してくれることもある。今では、NHSの職員に対してサービスを行っている店のまとめサイトを作っている人もいる。

こうしたサポートは国や公的なものとは関係なく、あくまで店や地域の善意で行われている。院内のカフェも民間企業が運営しており、無料コーヒーは彼らの善意で成り立っている。だからこそ温かく感じるのだ。

地域の人からもつねに「ありがとう」という言葉をかけられる。彼らのこうした小さな支援や気持ちほど、私たち医療従事者の気持ちを和ませるものはない。新型コロナの爆発感染で逃げ場のない私たち前線職員を支えてくれているのは、多くの人々のこうした温かい気持ちなのである。

ピネガー 由紀 イギリス正看護師、フリーランス医療通訳

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

Yuki Pineger

日本での看護師免許や勉強経験はなくイギリス義務教育(GCSE)、高等教育A-levelを経てマンチェスター大学看護学部卒業。現在は、イギリス中部に在住してNHSの大学病院に勤務。通常は外科部門に所属して手術前後の患者看護に当たる傍ら、学生指導も担当している(2020年4月から新型コロナ感染病棟に期間未定で異動中)。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事