「需要の崩壊」始まったアメリカの最悪シナリオ 5月雇用統計を安心できないこれだけの理由
コロナ危機で始まった供給ショックが需要の崩壊に変容した、ということだ。「需要と供給は相互に関連している」と、マサチューセッツ工科大学(MIT)の経済学者で、ゲリエーリ教授らと最近、論文を共同執筆したイバン・バーニング教授は話す。「これらは別々の概念ではない」。
危機の初期段階で議会は失業給付を拡大し、雇用維持のために巨額の資金を中小企業に注ぎ込み、州政府を支援するなどの対策を打った。しかし、これらの措置の多くは、このままいけば今年夏に期限切れとなる。そして、5月の雇用統計が改善したことで、トランプ政権を支える共和党議員の多くが対策追加に消極的な姿勢を示すようになった。
これに対し、財政的に保守的な重鎮の専門家ですら、今は経済の悪影響が長期化するのを防ぐために、もっと大規模に財政支出すべきだと訴えている。
その代表例が、連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長だ。同議長は長年財政タカ派の立場をとってきたが、4月下旬の記者会見でこう述べた。「今はアメリカの大きな財政力を使って経済を支えるべき時だ。長期的な生産能力に対する打撃を可能な限り抑え、難局を乗り切ることに力を注がなくてはならない」
大恐慌の教訓
後に「大恐慌」と呼ばれることになる危機が1929年に始まったとき、当時のフーバー大統領は当初、その現実を認めようとせず、次いで他国に責任をなすりつけようとした。さらには、政府が被害を押さえ込むのに本当にできることは何もないとまで言ってのけた。
とはいえ、そのフーバー政権も結局は積極的な対策に乗り出し、連邦政府による大規模な雇用プログラムが打ち出されることになった。前出のローシュウェイ氏が語る。「大統領は演説を行い、70万人のアメリカ人が連邦政府の公共事業で働いている、これほど大規模な公共事業はかつてない、と述べた。確かにそのとおりなのだが、その一方で当時の失業者は700万人を超えていた」。
つまり、1930年代の大恐慌は次の点を示している。経済の土台に深い亀裂が入ったときには、それは簡単かつ短期間に修復できるものではなく、一見大規模に見える対策ですら規模的に十分でないことが多い——。
確かに3〜4月の閉鎖状態から経済が少しずつ回復してきているのは明るいニュースだ。世界は混乱しており、混沌とした状態が続いている。しかし、だからこそ、経済の回復を妨げる恐れのある根本要因からなおさら目をそらしてはならないのだ。経済の土台がこのまま崩れていけば、まだ序盤といえる21世紀に、「失われた10年」を2回も経験することになるかもしれない。
(執筆:Neil Irwin記者)
(C)2020 The New York Times News Services
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら