その上で第2段階の課題がどこにあるかと言えば、「企業のトリアージ」ができるかどうかであろう。トリアージとは緊急事態の際に、患者の重症度に基づいて治療の優先度を選別する行為である。可能性の低い患者を見捨てて、可能性の高い患者に限られた資源を集中する。人命に係わることだけに、そこには重い葛藤が生じる。
似たような作業を、企業相手にやらなければならない瞬間が到来しそうである。コロナウイルスは医療やテレワーク関連などで新たな需要を創出する一方、従来型の産業に大きな爪痕を残している。
端的に言えば航空産業だ。「空の旅」という需要は激減していて、コロナ以前の水準に戻るまでには数年を要するだろう。しかしエアラインは、航空機という巨額の有形固定資産と、膨大な雇用を維持しなければならない産業である。ジェット燃料の費用こそ減少しているとはいえ、どうやって巨額の固定費を維持して行けるのか。
今回の2次補正では、政府系金融機関と民間銀行の協調融資により、資本注入枠に12兆円を用意している。ドイツ政府がルフトハンザ航空に資本注入したようなことが、遠からずわが国でも必要になるのではないか。その際には、「どの会社を助けて、どの会社は見捨てるか」という一種の「トリアージ」が必要になってくる。この作業を誰がやるのか、どんな条件をつけるのか、癒着や不合理な判断をどうやって避けるのか、など課題は尽きない。
ところが足元のマーケットを見ると、株価は意外と強く、航空会社の株価も大きく下げた後にそれなりに戻している。業績の悪化が避けられないのであるから、普通だったら投機筋が叩き売りに出るところである。というか、著名投資家のウォーレン・バフェット氏が大損を出して航空会社4社の株を売却して、「世界は変わった」と言ったのは何だったのだろう?
バフェット氏は買いが早すぎたのかもしれないが、察するに政府が巨額の公的資金を用意した時点で、投機筋は売るに売れなくなってしまったのであろう。何しろ政府には、10兆円の予備費までついている。国会の監視がないのはケシカランと野党の評判は散々であったが、あれが「見せ金」なのだと考えれば効果は抜群だ。いや、かくなる上は「せっかく国会の承認を得たのだから…」などと、無理して使わないでくれる方がありがたい。
大切なお金を「スマート」に使える政治家がいない
あのリーマンショックの当時、ブッシュ政権の財務長官を務めていたハンク・ポールソン氏は、議会に巨額の予算を請求して、「敵に水鉄砲しかないと見せると使う必要が出てくるが、バズーカ砲を見せれば使う必要はない」と名言を吐いたものである。ポールソンはゴールドマンサックス出身で、ウォール街の海千山千を相手に生き残ってきた男である。あいにく今の安倍内閣に、そんな気の利いたキャラクターがいるとは思えない。
話を戻すと、アフターコロナ時代には産業構造の大転換がありそうだ。そうした中では、大規模な業界再編もあるだろう。そうした中で、果断な「トリアージ」が必要になる局面があるかもしれない。ここでブラックジャックのような天才外科医が居て、快刀乱麻を断ってくれればいいのだが、実際問題として誰がその役を果たしてくれるのか。
いっそのこと、海外からプライベートファンドの猛者を連れてきて、思う存分暴れてもらうのがよいかもしれない。が、今のこの国に、そんな勇気のある指導者が居るだろうか。つくづく予算の規模が問題なのではない。それをスマートに使えそうな人物が見当たらないことが、アフターコロナ時代の難題なのではあるまいか(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)。
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