密輸コウモリも取引「ペット輸入大国」日本の闇 野生生物が街中に入ると新興感染症招く恐れも

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環境省は2012年8月、ニホンカワウソを絶滅種とした。安藤さんは1970年代、カワウソ調査法の確立といった基礎研究を行い、生息状況調査を行った。過去の新聞記事や文献を分析し、日本人がこれまでカワウソとどのような関わりをもってきたかを調べた。著書の『ニホンカワウソ』(2008年初版、東京大学出版会)は、1950年代までは日本人にとってごく身近な生き物だったカワウソを紹介している。例えば、各地にいまでも残る「獺越」(おそごえ)という地名は、カワウソが山を越えるという意味だという。カワウソは10キロメートル以上も山中を歩いて別の水系に移動することで知られた。

また、1980~1990年代には、安藤さんは韓国でニホンカワウソの“親戚筋”ともいわれるユーラシアカワウソの保護に貢献した。韓国南部の慶南大学校(昌原市)で教鞭をとった際に、海岸でカワウソの糞を発見したのがきっかけという。韓国の研究者とともに生息状況調査を始め、それが韓国国内での保護の機運となった。ユーラシアカワウソの保護は成功し、現在は運が良ければ姿を見られる親水公園もある。

世界には現在、13種のカワウソが生息する。TRAFFICは今回の調査に先立って、2018年の10月、カワウソの日本への密輸について調査を行い、報告書を出した。それによると、2000~2017年に計52頭が日本の税関で押収された。すべてタイから輸出され、タイでは1頭3400円で買い取られ、日本国内では100万円以上で売買されていた。

こうした取引が横行すると、東南アジアの生息地での乱獲が起きる。都内の水族館で行われていたコツメカワウソのショーをのぞくと、「生息地での乱獲が心配」「日本ではニホンカワウソは絶滅」「野生生物特有の臭いが服や室内についてしまうし、ペットには向きません」などの説明も行われていた。都内のペットショップではコツメカワウソが「合法的に飼育繁殖したもの」として、売られていたが、その合法性は不確かだ。

野生生物は飼うよりも保護保全や観察を

感染症ウイルスの問題から離れても、「遠く離れた生息地で捕獲した野生生物を日本に連れてきて飼うのは間違いである」という安藤さんの考えは正しいと思う。それよりも、日本国内で、絶滅が心配される野生生物の保護保全につとめ、時にその姿を観察する、そういう生き物とのふれあいがもっとできたらと思う。

最近、群馬県北部に行き、キジを見かけた。驚いていると、地元の人から聞いた。「キジなんか、いっぱいいますよ」「イヌワシもいます。畳一畳くらいの大きさで飛んできて、キジを食べるんです」。今度はイヌワシ観察にトライしてみたい。きっとドッキリビックリの楽しさは、野生生物をペットとして飼うよりも大きいのではないか。

韓国で保全に成功したユーラシアカワウソ。韓国の研究者から「自由に使ってください」と渡された写真という(写真:故安藤元一さん提供)
河野 博子 ジャーナリスト

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こうの ひろこ / Hiroko Kono

早稲田大学政治経済学部卒、アメリカ・コーネル大学で修士号(国際開発論)取得。1979年に読売新聞社に入り、社会部次長、ニューヨーク支局長を経て2005年から編集委員。2018年2月退社。地球環境戦略研究機関シニアフェロー。著書に『アメリカの原理主義』(集英社新書)、『里地里山エネルギー』(中公新書ラクレ)など。2021年4月から大正大学客員教授。

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