コロナの次に来る「耐性菌パンデミック」の脅威

超細菌が毎年1000万人の命を奪う未来

強力な政府介入を求める専門家は多い。3月に発表した報告書でアメリカ政府説明責任局(GAO)は、薬剤耐性問題に対する連邦政府の対応が場当たり的だと指摘、基本的なデータ不足からアメリカ疾病対策センター(CDC)も問題にまともに対処できていないと述べた。その一例として報告書は、アメリカで年間50万件が確認されている薬剤耐性淋病のうちCDCが追跡しているのは2%にも満たない点に触れている。このデータには、女性に影響を与える症例すら含まれていない。

報告書は監視の強化に加えて、抗生物質メーカーに開発を促す金銭的インセンティブ、感染症を迅速に特定し医師が適切な薬剤を処方できるようにする診断テストの開発企業に対する支援を勧告した。

もはや無為無策では許されない

「肝心なのは、打つ手があるということだ。手をこまねいていれば、スーパーバグ(どんな抗生物質も効かない超細菌)が現れ、新型コロナに匹敵する危機に直面することになる」と、GAOの主任科学者で、報告書の筆頭執筆者を務めたティモシー・パーソンズ博士は指摘する。

抗生物質開発では市場の失敗が見られるものの、議会の立法議論は盛り上がりに欠けている。公衆衛生の専門家は、新型コロナのパンデミックがきっかけで、政治に突破口が開くことを期待している。

「これは政治的な問題ではない。これは国家安全保障の問題であって、共和党や民主党(という党派)の問題ではない」と、タフツ医療センターの感染症専門医で、抗生物質耐性菌との闘いに関する大統領諮問委員会のメンバーを務めるヘレン・バウチャー医師は言う。

一方、ミシガン州アナーバーでは、新型コロナ患者に対する抗生物質の使用を研究しているミシガン大学医学部の病院総合医、ヴァレリー・ヴォーン医師が、ここ数カ月の知見を整理し、最良の治療ノウハウをオンライン講義で共有してきた。同医師が1000件を超える州内の新型コロナ症例を調査したところ、細菌による共感染を起こしているケースは4%にすぎなかった。にもかかわらず、大半の患者は病院到着後すぐに抗生物質が投与されていた。

「今回のパンデミックが示しているのは、患者がウイルスに感染していることを知りながら医師が抗生物質を与えていたということだ」とヴォーン医師。「たとえそれが正しくないことであっても、医師は患者のために何かをしたいと望んでいるので厄介だ」。

ヴォーン医師は処方習慣が変わることだけを望んでいるのではない。薬剤耐性問題では監視体制の改善に加え、新しい抗生物質が生まれないという市場の機能不全に対処する必要性が高まっている。同医師は今回のコロナ危機がきっかけで、政治家や政策立案者がこうした課題を無視するのが難しくなることを期待しているのだ。

ヴォーン医師は言う。「(薬剤耐性問題の)対策は遅れている。今回のパンデミックが刺激剤となり、対応の速度が上がるよう願っている」。

(執筆:Andrew Jacobs記者)
(C)2020 The New York Times News Services

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