コロナの次に来る「耐性菌パンデミック」の脅威 超細菌が毎年1000万人の命を奪う未来
「懸念は行きすぎだった」と、ニューヨーク州最大級の医療機関、ノースウェル・ヘルスで感染症の責任者を務めるブルース・ファーバー医師は言う。同医師はノースウェル・ヘルスの23の病院で何千人という新型コロナ患者の治療に当たってきた。
多くの医師にとって、コロナ禍は抗生物質の適切な使用についての教訓となっただけでなく、ゆっくりと進む、もう1つの世界的な保健上の脅威を浮き彫りにした。薬剤耐性菌の脅威が高まっているという現実だ。危険な病原体に対抗できる抗生物質と抗真菌薬の数は減り続けており、世界では薬剤耐性菌が原因で毎年70万人が命を落としている。
医師、研究者、公衆衛生の専門家らはここ何週間と、パンデミックを教育の機会に変えようとしてきた。政府の怠慢で新型コロナの感染が全世界に広まったように、真剣な対策が取られなければ、新型コロナ以上に致命的な薬剤耐性感染症の流行が加速する恐れがある、と警鐘を鳴らしているのだ。国連によると、薬剤耐性が原因で2050年までに毎年1000万人が死亡する事態となる危険性がある。
新たな抗生物質が開発されなければ、人工膝関節置換手術や帝王切開といった一般的な外科処置ですら、容認できないほどリスキーなものとなりかねない。その結果引き起こされる医療危機は2008年の世界金融危機に匹敵する景気後退をもたらす可能性がある──。昨年発表された国連の報告書はそう指摘している。
危険なまでに細った抗生物質開発
「今回のパンデミックが世界に教えたことがあるとすれば、それは準備を整えておいたほうが長期的には費用対効果が高くなるということだ」と、アメリカ国立衛生研究所臨床センターの研究者、ジェフリー・ストリッチ医師は話す。同医師は新しい抗生物質の必要性の高まりを定量化する研究論文を6月4日、医学誌『Lancet Infectious Diseases』で発表した。
「薬剤耐性問題を看過している余裕はわれわれにはない」(ストリッチ医師)
新しい抗菌薬の開発パイプラインは危険なまでに干上がっている。過去1年間で、有望な薬を開発していたアメリカの抗生物質開発会社3社が倒産し、世界的な大手製薬企業の大半がこの分野から手を引いた。アメリカに残された新興の抗生物質開発会社も、多くは先行き不透明な状況にある。
新しい抗菌薬の確保が急務となっている中で投資家離れが起こっているのは、ビジネスの現実が暗いためだ。
「残りの小規模なバイオテクノロジー企業は来年の今頃までもたないのではないか」と語るのは、製薬業界から資金提供を受けている活動団体「ワーキング・トゥ・ファイトAMR」の幹部、グレッグ・フランク氏だ。「待てば待つほど(問題の)穴は深くなり、解決のための費用も高くなる」(フランク氏)。