「伊勢丹」になりきれない地方百貨店の苦悩
単品管理のメリットは、商品情報をより詳細に把握することで、需要予測ができることにほかならない。メーカーに対して「このブランドの婦人ニットを30枚」と発注すれば、その内訳はメーカー側のいいようにそろえられてしまうが、販売データを読んで、売れ筋の順に「このブランドのこの型は、黒を15枚、紺を10枚、白を5枚」と発注できれば、販売機会ロスは減る。シーズン初めの発注実績を基に、本格商戦の販売計画を立てれば、その精度も上がる。
データを収集、分析し、仮説を立て、検証する。「単品管理システムを使いこなす」とは、実はこの地道な作業の繰り返しにすぎない。
井筒屋の担当者は証言する。「単品管理の煩雑さはまず、すべての商品コードを登録するところから始まった」。井筒屋では、担当バイヤーがこの作業を行う。婦人靴売り場の場合、たった1人だ。「膨大な数の商品の分類を決め、コードを入力する。すべて終わったときには、すでにシーズンが変わっている」。
前線に十分な人数を割ける伊勢丹に対し、リストラ後の限られた人数で店舗を運営している地方百貨店。手本である伊勢丹との間には想像以上の段差が存在する。実際、一度は伊勢丹の門をたたいたものの、話を聞いた途端に「やはり無理」と白紙撤回した百貨店もあった。
「データを使えばいろいろなマトリックスが可能になり、多面的な分析ができるのはわかっている」と別の社員もこぼす。だが、仮に精度の高い発注をしても、メーカーの納品は必ずしもそのとおりにはならない。
売れる店に売れ筋を置きたいのがメーカー側のホンネ。「『売れるから10枚追加』と頼んでも、メーカーはリスクヘッジをして少なめに納品するのが常」。それなら、データ作業に膨大な時間を費やすより、店頭に出て接客に精を出したほうがいいという結論だ。また、いかに精度の高い需要予測をしたところで、土日に台風でも来れば一瞬にして客足は止まり、無駄骨になる。システム活用という仕事に、社員が価値を見いだせないのも致し方ないだろう。
場所貸し業にはならないという強い意志を持って導入したはずのシステムが、使いこなせぬままデータは蓄積される一方。データから仮説を立て、検証をするという流れが、仕事の中に根付かないのである。
「数字を読むという土壌がないのに導入しても、根付かせるのは難しいのかもしれません」と言うのは、福岡の百貨店、岩田屋の幹部だ。
岩田屋は、02年から伊勢丹の子会社として業務支援を受け、06年10月から伊勢丹のシステムを導入している。3年が経過してもなお成果の見えない井筒屋とは対照的に、こちらでは、導入からわずか1年で、データを活用した成功事例がいくつも報告されるようになった。