「伊勢丹」になりきれない地方百貨店の苦悩


 たとえば、AブランドのダイレクトメールはAの購入代金上位100人に発送していたという場合。数字を検証していくうちに、Aの中のある商品群は、BやCのブランド購入層とかぶる傾向があることがわかった。そこで、Bブランド、Cブランドの案内状も発送してみたところ、集客が上がった、という具合だ。

実は、岩田屋が使っていた従前のシステムも100%単品管理ができるものだった。つまり、数字を活用するという仕事は、岩田屋にも以前からあり、システムを使うためのハードルが低かったことは確かである。だが、今回導入したシステムをスムーズに生かすことができた根本的な要因は、ほかにあるようだ。

「以前の岩田屋は、最先端やトンガリ感を意識しすぎてばかりで、必ずしも福岡・天神を訪れる顧客が求めるものを並べているわけではなかった」とは、あるアパレル会社社員の話。単品管理はあくまでも社内の管理上であって、顧客ニーズを読み取るという目的では、活用できていなかったという。

だが、業績悪化で伊勢丹に支援を求めて以来、その風土が変わった。経営陣に伊勢丹出身者が入ると同時に、仕事の仕方からすべて伊勢丹流を取り入れた。顧客に来店してもらうためには何が必要かを、全社で考えるようになったのだという。

「最初は誰もが葛藤を抱えていたはずだ。でも、システム導入に際して社員は伊勢丹の研修を受け、社内でも随時、サブバイヤー、若手までもがデータの読み方を学んでいる」(岩田屋社員)。

今は業績横並びの井筒屋と岩田屋。だが、システム活用の巧拙を決定づけるこうした風土が、数年後に両社の明暗を分けるかもしれない。

一方、本家の伊勢丹は、そのシステムをさらに進化させる取り組みの真っ最中だ。昨年から取り入れた「ブロック制」に伴って、従来からのデータ読み取りを、「売り場」単位から「ブロック」単位へ移行させた。

「ブロック」とは、伊勢丹流「お客様の声を聞くための最小単位」。婦人靴売り場の例で言うなら、それはブランド単位ではなく、「ラグジュアリー」「高感度」「機能性」と、顧客が買い物をするときの心理に沿って分類した単位となる。このブロックごとに、リーダーを配置し、客の要望や意見を吸い上げる窓口としたのである。現在は、ブロックリーダーが接客の合間にいつでもデータを参照できるよう、携帯端末を持たせる実験も行っている。

多くの百貨店で、伊勢丹システムの導入は今後も続く。今年10月には名鉄百貨店が導入を開始。09年春には丸井今井(本社・札幌)が、12年には東急百貨店でも予定している(67ページ図)。成果を出すためには、導入システムを「活用」しなければならず、活用するためには、その目的意識を社員が明確に持っていなければならない。まして、経営統合を控える三越にとっては、その必要性がこれら提携百貨店以上に問われることは間違いない。
(堀越千代記者 =週刊東洋経済12月8日号より)

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