大ピンチ、JR「3島会社」20年度の鉄道収支予測 3ケースに分けて予測、意外な試算結果も…

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ただし、明るい材料も見受けられる。2010年度から2019年度にかけて定期旅客は旅客運輸収入、旅客人キロとも成長しており、その成長の倍数は前者が1.11倍、後者が1.07倍と、どちらもJR旅客会社中で最も大きい値を示しているのだ。その背景には九州の各都市の発展、特に福岡市の人口増が挙げられる。

定期運賃は普通運賃と比べて割引率が高く、特に通学定期の運賃は採算割れするケースも多いが、最大で6カ月先までの運賃を前払いで購入してもらえる利点は大きい。これは地方の中小民鉄や第三セクター鉄道が何とか生き永らえている理由の一つでもある。

新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言が解除された後に最初に戻ってくる旅客は定期旅客だ。定期旅客をつなぎ止めている間に定期外の旅客を取り戻す策を実行に移し、効果を上げられればいうことはない。

予測の前提

3つのシナリオの解説は以下のとおりだ。

1)各月の旅客運輸収入の予測
現状を把握し、今後の動向を探るためにJR旅客会社6社の月ごとの旅客運輸収入が必要だが、各社、国ともこのような数値を発表していない。一方で、国土交通省の「鉄道輸送統計調査月報」には過去年度における月ごとの旅客人キロ(輸送人員に平均乗車キロを乗じた数値)が新幹線・在来線の別、さらには定期・定期外の別に公表されており、年間の数値に対する月ごとの比率が求められる。2017年から2019年までの3年間を集計したところ、比率は4月が8.99%、5月が8.38%、6月が7.52%、7月が9.33%、8月が8.83%、9月が7.64%、10月が9.27%、11月が8.52%、12月が7.82%、1月が8.44%、2月が7.33%、3月が7.93%であった。
それから、定期旅客の旅客運輸収入を厳密に試算するために、通勤定期と通学定期との別に求めた。これも鉄道統計年報の2015年度から2017年度までの3年間のデータから算出している。定期旅客における通勤定期と通学定期との比は、JR北海道が67.63対32.37、JR東日本が86.54対13.46、JR東海が81.00対19.00、JR西日本が80.73対19.27、JR四国が55.75対44.25、JR九州が69.44対30.56だ。
2)営業費用の予測
営業費用は毎日一定の金額となるという考えから、各月とも日数に応じた数値を配分している。旅客運輸収入が急減するなかでJR旅客会社6社は営業費用の削減に努めており、可能な範囲で予測した。具体的には次のような考えに基づく。
JR旅客会社6社の鉄道事業における営業費用について、鉄道統計年報の2015年度から2017年度までの3年間のデータから、列車の本数を10%、20%、40%それぞれ間引いた場合に相当する削減率を求めた。車両保存費や運転費中の動力費、駅や施設に関する費用である運輸費のなかで、人件費を除く経費をそれぞれ列車を間引いた比率に応じて差し引き、それから案内宣伝費は固定費と見られる人件費を含めて全額削減している。算出された削減率を各社10%、20%、40%それぞれ列車を間引いた順に挙げると、JR北海道は1.40%、2.57%、4.90%、JR東日本は2.33%、3.86%、6.92%、JR東海は2.36%、3.91%、7.00%、JR西日本は1.96%、3.81%、7.51%、JR四国は1.42%、2.55%、4.81%、JR九州は2.08%、4.02%、7.90%だ。
なお、JR旅客会社に限らず、鉄道事業は固定費の比率が極めて高いため、列車を1本も動かさなかったとしても営業費用の削減は限られてしまう。2015年度から2017年度までのデータから、変動費と見られる金額をすべて削減したとしても固定費の比率はJR旅客会社6社合わせてなお83.08パーセントにも達している。
今回、JR北海道、JR西日本、JR四国、JR九州の4社は固定費の削減を狙って社員の一時帰休を実施した。最も規模の大きいJR西日本では駅員、運転士、車掌、本社の間接部門の社員を対象に1日当たり約1400人の一時帰休を2020年5月16日から当分の間行うというが、その効果を試算しても1カ月当たり数億円程度にすぎず、月額平均で714億円となる同社の営業費用からみればごくわずかだ。したがって、社員の一時帰休については営業費用の誤差の範囲内と見なして考慮しないこととした。
3)3つのケースのシナリオ
共通しているのは2020年4月と5月とでの旅客運輸収入の減少率だ。各社が公表した月ごとの旅客運輸収入、輸送量の推移やゴールデンウィーク期間中の利用状況を参考としている。
4月の旅客運輸収入の減少率は、新幹線、在来線とも定期旅客は通勤定期が60%、通学定期が100%、新幹線の定期外旅客は95%、在来線の定期外旅客は90%とそれぞれ考えた。
5月の旅客運輸収入の減少率は、新幹線、在来線とも定期旅客は通勤定期が50%、通学定期が90%、新幹線の定期外旅客は95%、在来線の定期外旅客は90%とそれぞれ予測した。
6月以降の旅客運輸収入の減少率については3つの前提を掲げた。ケース1は新幹線、在来線の定期旅客、定期外旅客とも2019年度の水準に戻るというもので、比較的楽観的な予測と言えるであろう。
ケース2は新幹線、在来線とも定期旅客は2019年度の水準に戻り、新幹線、在来線とも定期外旅客は20パーセント減が続くというものである。緊急事態宣言はすべての都道府県で解除されても、「新しい生活様式」の励行により、ビジネス客、旅行客とも落ち込むと考えられるからだ。
ケース3は新幹線、在来線とも定期旅客は2019年度の水準に戻り、新幹線、在来線とも定期外旅客は40%減が続くという内容である。ケース2で考慮した点に加え、インバウンド需要は当面見込めないし、例年7月、8月に上昇する夏休みの旅行需要も、休校期間が長引いて夏休みが中止または短縮となるなかでは生じるはずもないからだ。
一方で、JR旅客会社各社は営業費用の節減を強力に推進しなければならない。そこで次のように仮定した。
ケース1では年間を通じて列車の運転本数を10%分間引いたと同等の営業費用の削減を実施したと見なしている。削減率は先に挙げたとおりだ。
ケース2では4月、5月は列車の運転本数を10%分間引いたと同等の営業費用の削減を実施したと見なし、6月以降は列車の運転本数を間引いた分を20%に増やしたと仮定している。6月以降も定期外旅客の旅客運輸収入の減少率が20%で続くと見込んだことに合わせたものだ。
ケース3では4月、5月は列車の運転本数を10%分間引いたと同等の営業費用の削減を実施したと見なし、6月以降は列車の運転本数を間引いた分を40%に増やしたと仮定している。やはり、定期外旅客の旅客運輸収入の減少率が40%で推移すると予想したことによるものだ。ただし、現実にはこれだけの列車の運転を間引くと、定期旅客にも影響が出る可能性が高い。
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