岐路に立つEUは建国直後のアメリカに似ている 今ブームのハミルトンがEUに与えるヒント

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ビデオ会議を行ったドイツのメルケル首相とフランスのマクロン大統領(写真:Kay Nietfeld/Pool via REUTERS)

通貨を統一し、国境を越えた自由な人の往来を認め、人口5億人の巨大経済圏を構築してきたEU(欧州連合)は、新型コロナウイルスの感染拡大によって新たな試練にさらされている。

危機の初期段階では、各国が爆発的な感染拡大への対応に追われて医療資源を抱え込んだこともあり、医療崩壊の瀬戸際にあったイタリアやスペインに十分な医療支援を提供することができなかった。

現在は多くの国で感染拡大が峠を超え、段階的な外出・移動制限の緩和を開始している。だが、感染者の多い国との国境は閉ざされたままだ。例えば、デンマークとノルウェーは6月15日に両国間の自由な往来を再開するが、集団免疫の獲得を目指したために周辺諸国と比べて感染者が多いスウェーデンに対しては、国境閉鎖を続ける。

欧州各国はロックダウンなどによって経済活動や国民生活が深刻な打撃を受けたため、回復を目指して巨額の財政出動を繰り出している。しかし、多額の債務を抱えるイタリアなどに自力で経済再建を賄う財政的な余力は乏しい。

コロナ危機からの復興に充てる資金を調達するため、EU加盟国が共同で債券(コロナ債)を発行することも検討されたが、財政規律を重視するオランダなどの猛反発でこの案は立ち消えとなった。危機のときこそ結束すべきはずのEUだが、それどころか、危機対応の取りまとめに当たって加盟国間の亀裂や分断があらわとなっている。

ドイツが債務の共有化を受け入れた

このように悲観論が先行したEUのコロナ危機対応だが、事態の打開に向けた新たな動きも出てきている。ドイツのメルケル首相とフランスのマクロン大統領は5月18日に記者会見を開き、感染収束後の経済復興に必要な資金を賄うため、総額5000億ユーロ(約61兆円)の基金の創設を共同で提案した。これは全額返済不要の補助金として、コロナ禍の打撃が大きい国に重点的に振り向けるという。これまで規律重視の立場を堅持してきたドイツが、コロナ対応で、債務の共有化を受け入れたのは大きな変化だ。

さらに、EUの行政府である欧州委員会は5月27日、独仏提案を上回る総額7500億ユーロ(約92兆円)の復興基金を創設し、うち5000億ユーロを返済不要な補助金として、2500億ユーロを返済が必要な融資として加盟国に提供する案を発表した。2021~2027年のEUの次期多年度予算の規模を引き上げ、それを裏付けに欧州委員会が債券を発行し、復興基金の原資とする。発行した債券の償還に充てる資金は、主に将来のEU予算から返済し、一部を排出権取引税、国境炭素税、デジタル課税などの新税導入で賄う。

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