岐路に立つEUは建国直後のアメリカに似ている 今ブームのハミルトンがEUに与えるヒント

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部分的にせよ債務の共有化につながる復興基金案には、オランダやフィンランドなどの規律重視国が引き続き反対している。補助金(返済不要の財政移転)と融資(返済が必要な政府債務)の割合をどうするか、加盟国間で支援をどう配分するか、将来の返済原資となる新税導入の是非、英国離脱後のEU予算の穴埋め方法、予算配分の見直しをめぐる東欧諸国の抵抗など、復興基金の創設に向けた今後の協議は難航が避けられない。

6月18・19日のEU首脳会議での政治合意を目指すが、加盟国間の意見の隔たりを考えると、合意は年後半にずれ込む可能性が高い。2021年からの稼働をにらむと、欧州議会や各国の議会承認のスケジュールはタイトだ。だが、ドイツが重い腰を上げ、債務共有化の支持に回ったことは大きい。最後は反対国を説得し、何らかの妥協案にたどり着くとみる。

こうしたEUを取り巻く環境については、今から230年前、建国直後のアメリカが分裂や解体の危機を乗り越え、合衆国としての礎を築いた時期と似ているという指摘がある 。

建国の父たち、連邦派と反連邦派の争い

ここでアメリカの建国史を振り返っておこう。

1775~1783年の独立戦争でイギリスからの独立を果たしたアメリカ合衆国は、当初13州(13邦)の緩やかな連合体で、中央政府の権力は弱かった。新しい国家のあり方をめぐっては、連邦政府の権力強化を主張する連邦派(フェデラリスト)と、各州の自治や主権を重視する反連邦派(アンチ・フェデラリスト、州権派)の間で激しい論争があった。

各州に広範な自治を認めつつ、中央政府の権限を強化する合衆国憲法が1787年に制定され、1789年に同憲法に基づき連邦政府が発足した。ワシントンが初代大統領に就任し、連邦派のハミルトンが財務長官に、反連邦派のジェファーソンが国務長官に任命された。ジェファーソンは後の第3代大統領でもあり、筆者が留学していたバージニア大学の創設者だ。

連邦派は北部諸州を中心に都市部の商工業者の利益を代表し、中央政府の権限強化を目指した。対する反連邦派は南部諸州を中心に農業的な利益を代表し、州権の維持を目指した。両者はそれぞれ今の共和党と民主党の系譜に連なる。

連邦政府が発足した後も両派の対立はたびたび繰り返された。なかでも、独立戦争時の州債務を連邦政府が肩代わりする州債引き受け案が激しい論争の的となった。ロン・チャーナウ著『ハミルトン―アメリカ資本主義を創った男』(日経BP)の記述を参考に、当時の議論を振り返ってみる。

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