新型コロナウイルスの影響で企業の資金繰りが悪化する中、銀行は対応に追われている。貸出条件の変更や新規貸出など積極的な支援を行う一方、融資先の業績悪化や倒産に備えた引当金(与信費用)は相応に積まなければならない。
しかし、企業側が業績の悪化度合いをまったく見通せない状況で、銀行側としても「相応」の水準を予想することが難しい。そのため、中小企業に融資する地方銀行の2021年3月期の業績予想は対応が大きく分かれた。
大手地銀の中では、八十二銀行のように、影響を正確に把握できないため業績予想を「未定」とした銀行もある。5月14日の決算説明会で「2021年3月の業績予想を公表できそうな時期は」という質問に、会社側は「しかるべき時点で速やかに公表する」というのが精一杯だった。
「そこまでやるか」と銀行員が仰天
一方、ある地銀の行員が決算内容を見て「そこまでやるか」と思わず驚いたのは、ふくおかフィナンシャルグループ(貸出残高は約16兆円)だ。
地銀上位の福岡銀行など4つの地銀を傘下に持つ同社は、2020年3月期に614億円(2019年3月期は51億円)もの与信費用を計上した。そのうち、87億円がコロナの影響を加味した予防的引き当てで、418億円が将来の景気悪化に備えた「フォワードルッキングな引き当て」としている。
見積もり方法を変更し多額の引当てを行ったことから、2021年3月期の与信費用は58億円と大きく減少する見込みだ。ふくおかFGが活用した「フォワードルッキングな引き当て」とは、2019年12月に金融庁が「金融検査マニュアル」を廃止したことで新たに可能になった手法だ。
これまで金融機関は、融資先の倒産実績など過去のデータを参考に与信費用の見通しを算出してきたが、リーマンショックのような景気悪化が将来起こった時にも対応できるよう、先行きのリスクも反映した。福岡銀行の財務担当者は今回の引当てを「コロナウイルス以前から、検討を続けてきた」と説明する。だが、コロナの発生を受けて将来リスクをより厳しく見ただろう。
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