日本企業は業績最悪期を脱し格付け安定化は進むが、力強い回復には遠い《スタンダード&プアーズの業界展望》
これに対し、日本企業は生産・在庫や人員の調整によって現金収支の改善とコスト削減を進めた。また、「エコカー減税」「スクラップ・インセンティブ(廃車奨励金制度)」や「エコポイント」といった各国政府による購入者向け補助金制度等の景気刺激策も、自動車や電機などのセクター中心に、日本をはじめ主要国で需要を下支えした。この結果、業績は製造業を中心に09年4~9月期で底打ち感が広がり、また大型増資で財務基盤の立て直しも図る企業も見られる。
しかし、課題はまだ山積している。国内や欧米といった先進国においては景気の戻りは遅い。
スタンダード&プアーズは2010年の日本経済、特に消費や投資の内需の回復は弱いものになると予想しており、企業業績が一本調子で本格回復していくシナリオは描きにくい。輸出や海外事業の比重が高い企業にとっては、為替の動向も大きな不透明要因の一つとなっている。
仮に一段の円高局面が続くようであれば、業績が圧迫されるだけでなく、生産の一段の海外移転を含め、世界的な生産体制の再構築に踏み切る企業も増える可能性がある。内需主体の企業にとっても事業環境は厳しい。
そもそも少子化による人口減少で市場全体のパイが縮小している中で、人口構成の変化をはじめとする社会的変化も消費者ニーズを大きく変えている。また、景気の低迷と厳しい競争で商品やサービスの価格低下圧力は引き続き根強く、デフレにも苦しめられている。
スタンダード&プアーズは、日本企業のコスト・経費削減は、固定費も含めて09年中に相当程度進んだとみているが、裏を返せば、一段のコスト・経費削減を進めていく余地はより小さくなっているものと考えている。
このため、2010年中に業績の回復歩調を一段と確実なものにしていくためには、売り上げの着実な回復が不可欠だと考えている。しかし、産業界全般が一律に良好な事業環境を享受できる状況ではないことから、商品やサービスの競争力の差によって個別企業の業績回復ペースに明暗がつくことになるだろう。