賭け麻雀の朝日新聞記者「停職1カ月」の妥当性 「なぜ解雇しないのか」の厳しい意見もあるが

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今回の賭け麻雀事件についていえば、警察が関係者の逮捕や書類送検を行うかどうかはまだ不明です。岐阜県と東京都の弁護士4名が、黒川氏および朝日新聞社の社員を含む記者3名、計4人に対する告発状を東京地検に郵送したということも報道されていますが、これによって、事態がどのように動くかも未知数という状況です。

このような中、先行して朝日新聞社は停職1カ月の懲戒処分を決定したわけですが、刑事責任が確定する前に、企業として懲戒処分を行うことは許されるのでしょうか。

この点、結論から言えば、今回の事件の場合は企業が本人から聞き取りを十分に行い、本人も賭け麻雀を行ったことを事実と認めているため、企業として懲戒処分を行うことは許されます。

社員が無罪を主張している場合

一方、例えば、「社員が痴漢で逮捕されたが本人は冤罪を主張している」とか、「社員が障害罪の容疑者として起訴されたが本人は正当防衛で無罪を争っている」というように、本人が犯罪行為を行ったことを認めていない場合には、企業は、原則として有罪判決が確定するまでは懲戒処分を控えなければなりません。

本人が逮捕されて物理的に出社できない場合や、保釈されているが出社を認めるとほかの社員に影響があるという場合は、判決が確定するまで起訴休職の扱いにするとか、転勤や配置転換などにより影響を緩和するといったような形での対応が必要です。

ただし、逮捕勾留が長引いて、起訴休職期間が満了したような場合は、物理的に労務の提供ができないということで普通解雇は可能です。結果的に無罪が確定した場合は、会社ではなく、国が賠償責任を負うことになります。

そして、社員が無罪を主張しているにもかかわらず、メディアの報道や世論に流されて短絡的に懲戒解雇をしてしまい、最終的に当該社員が無罪となったとき、企業は不当解雇による賠償責任を負う場合があります。

また、賠償問題だけでなく、「うちの会社は、社員を守ってくれず、信じてもくれない」と、当事者以外の社員も含め、労使の信頼関係に亀裂が入る可能性があります。

ですから、刑法上の有罪が確定する前に懲戒処分を行う場合は、本人に事実確認をしっかりと行い、慎重に企業としての懲戒処分を行わなければなりません。

社員の立場の人も、万が一、自身は無罪と信じていることで刑事責任を問われることとなったときには、自身の身分保障については、この「推定無罪の原則」を頭において、企業と折衝をしたほうがいいのです。

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