日米トップ会談でTPP交渉はどう動くか CSIS上級アドバイザーのスコット・ミラー氏に聞く

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スコット・ミラー氏は戦略国際問題研究所 (CSIS) の上級アドバイザー。ワシントンに拠点を置く通商政策の専門家の一人として知られている。1997年から2002年にかけてミラー氏は消費財の大手であるプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)のグローバル貿易政策担当役員を務め、貿易と投資の実務に深く広範囲に関与した。P&Gでは業界団体に働きかけて自由貿易協定を推し進めるのも、ミラー氏の責任範囲の一つであった。また米国通商代表部の貿易政策・交渉に関する諮問委員会のメンバーとして連邦政府への助言も行ってきた。同氏に環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の見通し、同交渉に臨む米政府の姿勢などを聞いた。

 

CSISの上級アドバイザーを務めるスコット・ミラー氏。同氏はオハイオ・ノーザン大学を卒業後、シンシナティ大学デザイン・アーキテクチャー・アート・プランニングの修士号を得ている。

ーー4月24日に行われる予定のオバマ大統領と安倍首相との会談により、TPP交渉はどう動くか。2人の間には、TPPのような難題に決着をつけられるだけの信頼関係がないとの見方がある。

こうした交渉には個人的な信頼と善意が欠かせないのは確かだが、それ以上に国益が大切だ。もし安倍首相が日本国内の経済改革に真剣であれば、そしてTPPのような協定がそのための利益になると考えるのであれば、それこそが最終的な交渉締結に向かう大きな力となる。

確かに、これまで締結されてきた自由貿易交渉の多くでは、トップに立つ人の個人的な関係が重要な役割を果たした。米豪自由貿易協定の場合、ジョージ・ブッシュ大統領とジョン・ハワード首相はとても親しかった。

ただしブッシュ大統領とニカラグアのダニエル・オルテガ大統領とはまったく親しくなかったにもかかわらず、ニカラグアはカリブ海協定の一部にあった自由貿易協定に調印している。重要なのは、国益だ。

TPPは単なる自由貿易協定ではない

――あなたはかつて、TPPは単なる貿易協定ではなく、それ以上の意味を持つものだと言っていた。

米国政府がアジア太平洋地域との貿易、さらには政治的、経済的な関係のあり方をどのように捉えているかを端的に示しているのが、TPPだ。

米国はすでアジア太平洋地域にある多くの国々と貿易協定を結んでいる。米国の5大貿易相手国のうち3国までがTPPに関わっている。TPPに参加を表明していない中国も、このトップ5のうちの1国だ。つまりアジア太平洋地域は、米国の貿易にとって極めて重要な位置を占めている。

米国はTPPにより、この地域との自由貿易のルールを設定しようと目指している。これは米国の長期にわたる外交政策の目標であり、古くは1989年発足のアジア太平洋経済協力 (APEC) に遡る。ベイカー前国務長官の時代から米国政府は、「太平洋の真ん中に線を引いて米国や西側半球だけが発展するのを望まない」と公言し、アジア太平洋との協力関係強化を進めてきた経緯がある。

振り返ると、TPPの前身が2005年に初めて締結された時には、環太平洋戦略的経済連携協定という名で、「P4」 と呼ばれる4カ国(ニュージーランド、シンガポール、ブルネイ、チリ)が参加していた。米国は2008年にこの協定に参加し、今では12カ国に上る。日本 のような経済大国も参加を決めたことで、大きなブロック経済が形作られようとしている。

――オバマ政権は、議会から貿易促進権限 (TPA) の承認を得られていない。この現状でTPPの話し合いを効率的に進められるか。

TPAが与えられていない状態でも、すでにかなり前進している。しかし交渉は非常に難しい段階になってきた。どのような経済協定も、交渉が大詰めを迎えるにつれだんだんと困難さを増す。交渉を進めれば新たな問題が持ち上がり、そこから引き起こされる事態の全体を見通すことはとてもできない。それが政治的緊張にも繋がる。

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