日米トップ会談でTPP交渉はどう動くか CSIS上級アドバイザーのスコット・ミラー氏に聞く

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――中間選挙を有利に戦うために、オバマ大統領はTPPを効果的に利用するはずだ。

もし私が大統領のスピーチ原稿を書くとすれば、アジア太平洋地域の地理的・戦略的な利害関係の重要性を強調する。オバマ大統領とそのチームは、すでにアジア太平洋におけるいわゆるリバランス(中国の脅威に対抗するための勢力再均衡政策)に向け、軍事面では大きな前進を遂げた。オーストラリアのダーウィンに海兵隊の混成部隊を派遣することになったのは、その重要な成果だ。

ただし、重要なのは軍事的なリバランスだけではない。経済的のリバランスも重要で、「TPPこそがアジア太平洋地域におけるリバランスをもたらすものだ」と説明すればいい。

――大詰めを迎える中でTPP交渉における大きな争点は?

参加各国はそれぞれにセンシティブな問題を抱えているが、重要なポイントはやはり日本との交渉だろう。日本はずいぶん遅れて交渉に参加した。日本が参加するまでに既に10回以上の会合が持たれている。市場参入の課題の多くについては、すでに話がついているか、少なくとも他のメンバーの間では意見の一致をみた段階で、日本が入ってきた。しかし、日本を軽視するわけにはいかない。TPPに参加する国々は世界のGDPのおよそ40%を占めているということがよく言われるが、そのうちの80%以上が日本と米国。貿易規模も大きく非常に重要な国だ。

これまで日本はほとんど自由貿易協定を結んでこなかった点にも留意する必要がある。TPPに参加する他の国々のほとんどはすでにFTAを締結している。例えばメキシコとカナダは米国の大きな貿易相手国だ。しかし私たちには、すでにNAFTAがある。3国の間には常に新しい課題が出ており、過去に解くことのできなかった難問も残ったままだ。それであっても、NAFTA参加国の間での貿易問題はそれほど多いわけではない。

日本の成長にとってTPPは有意義

ー日本政府の姿勢をどう評価しているか。

私には、はたして日本政府がこの問題とどれだけ真剣に向き合っているかどうかがよくわからない。しかし、これを推し進めることは、農産物、工業製品、それにサービスの分野で互恵的な市場開放につながるはずだ。

日本が再び成長を取り戻すためには、いくつかの基本的な変化が必要だと思う。1つ目は、労働力としてより多くの人を迎え入れること、そこにはおそらく女性の活用も含まれる。2つ目は、いくつかの主要な産業部門、とりわけ農業分野とサービス業で生産性を向上させることだ。貿易協定はこうした産業分野に生産性の向上をもたらす契機となることは間違いない。

――残された時間はそれほど多くない。

もし私が通商代表であれば、議会には2015年にTPPへ合意するように考慮してほしいと考えるだろう。選挙がある2014年に議会がこの協定を取り上げるのはよくないからだ。つまり、今年でもなければ大統領選挙が行われる2016年でもない。

今後、TPP交渉が完全に空中分解することはありえない。これらの国は複雑にさまざまな協定を結んでおり、崩壊するようなことは考えにくい。そのため成功と失敗を判断するポイントは、協定の中身だ。協定が当初描いていたものから大幅に狭められることも考えられる。最悪の場合を考えると、米韓自由貿易協定(KORUS)のようなレベルになってしまうか、あるいはKORUS以下の協定になるかもしれない。どこまで踏み込んだ話し合いをできるかが、今後数カ月の焦点だ。

ピーター・エニス 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Peter Ennis

1987年から東洋経済の特約記者として、おもに日米関係、安全保障に関する記事を執筆。現在、ニューズレター「Dispatch Japan」を発行している

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