日米トップ会談でTPP交渉はどう動くか CSIS上級アドバイザーのスコット・ミラー氏に聞く

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どの国にも古くから抱えている難しい問題がある。「センシティブな問題」 と呼ばれるもので、2国間協定を結ぶ場合であっても、これがネックとなって最終段階では困難を極める。こうした問題について、交渉者は自国に帰った際、「この貿易協定は厳しい話し合いとなったが、我々は勝利した」 と報告する必要がある。まして12カ国が新たな協定を結ぶとなれば、各国が勝利を報告する難しさは、並大抵のものではない。

交渉担当責任者であるマイケル・フロマン通商代表は議会側との最低限度の妥協点がどこにあるかを知る必要がある。議会がTPPを承認するために、他の参加国から引き出すべき譲歩は何なのかを把握し、貿易交渉を担当する権限を得なければ、ここからの前進は難しい。もし私がフロマンの立場であれば、TPAを持たないうえ、議会との妥協点を持たないままに交渉を進めてTPPの締結をするようなことはしない。後になって、議会に否決されるリスクが大きいからだ。

歴代でもっとも自由貿易協定に熱心

――オバマ大統領はTPP交渉にどのような姿勢で臨んでいるのか。

米国には、フーバー大統領以降、保護主義を掲げる大統領が一人もいない。大統領が自由貿易を支持してきた長い歴史がある。特に、民主党大統領はこれまで自由貿易の促進に成功してきた。ビル・クリントンは自らのエネルギーを北米自由貿易協定 (NAFTA) の防衛に注ぎ込んだし、中国との貿易を正常化した。このクリントンの遺産は、今まで引き継がれている。

オバマ大統領はどうか。私が大統領に近い人たちと話をする限り、大統領は本能的に正しい場所を嗅ぎ当てている。上院議員時代の投票記録を調べると必ずしも自由貿易に拘っていないが、その時にはいろいろな事情があったのだろう。大統領になってからは自由貿易支持を明言しており、それは変わっていない。

現実の問いは、大統領がこの課題をどれだけ重要視し優先準位を上げて取り組むかという点だ。私の見るところ、オバマ大統領は過去のどの大統領よりも自由貿易に強い関心を持ちながら、議会と向き合っている。

その背景には、貿易は米国経済にとって無視をできない比率を占めるようになっていることがある。1974年貿易法の時代には、合衆国の貿易がGDPに占める比率はおよそ10%だった。完全に国内経済の時代だった。1986年貿易法の頃に、貿易がGDPに占める割合はざっと15%に上昇。そして今日はGDPの30%程度が貿易によるものだ。

米国の経済は過去のいずれの時代よりも世界経済と深く関わりあっている。そうした中で議会の議員構成も変わり、貿易に対するムードも変化してきた。現在の議会は自由貿易に極めて前向きだ。2011年だけでも議会は3件の自由貿易協定を順々に承認したが、院内の承認に218票が必要なところ、どれも250以上の票を集めた。10年前は、218票獲得するのはとても難しかった。つまり、今の議会には自由貿易協定を受け入れる姿勢がある。

ーーそれでも、大統領側は対決姿勢で議会に臨んでいる。

そう。ジャケットを脱ぎ捨てて議会側と対決しようとしている。彼がこれまで推し進めてきた政策のために闘おうとしているのだろう。しかし、この闘いは簡単ではない。実力のある政治家がみなそうであるように、オバマ大統領は自派の結束を固めて敵方を分断させることで、自らの政策を進めてきた。しかし貿易協定の場合、状況は逆だ。自由貿易の問題では、議会の民主党側を分断させて共和党側を結束させる結果になっている。

オバマ政権は、2014年11月の中間選挙までの政治戦略を明確にするべきだ。ホワイトハウスと議会民主党としては中間選挙を優先し、選挙前には議論の分かれる問題を避けて通りたい。それは共和党としても同じだ。それでも、選挙前のおおよその戦略を知らせて、大統領が目指していることについて、議会と情報を共有しなければ何も進まなくなってしまう。

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