地方創生の第一人者が「5Gに本気」な深い理由 人材誘致、教育…想像もしなかったことが!

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――神山町にはいまも高速な光環境があります。NTTドコモの協力で、今度は移動する車の中でもできるテレワークという総務省の5G総合実証実験をやられたと思いますが、5Gの登場でどのような変化が起きてくるでしょうか。

大南 5Gによって何が変わるかは、実際にそれが起きるまではなかなか想像できないことだと思います。2005年に神山町に光ファイバーが敷設されたときも、「これで何が起きるか」ということについて、少なくとも神山町内で予測できた人間はいませんでした。でも実際は、そこから今のサテライトオフィスの動きが始まったわけです。

とはいえ、これまでICT関連の人たちを引きつけたことをきっかけに大きな変化が起きてきたのは、まぎれもない事実です。いまの神山には先端技術に精通した人たちが集まっていますから、5Gの登場で、想像もしなかったことが起きる可能性はあると思います。

例えばいま神山には個人病院が3カ所ありますが、次の世代のお医者さんは、果して町に帰ってきてくれるのかという心配があります。今後は地域医療の中で、5Gを使った遠隔診療が必須のものとして求められるのではないでしょうか。

高専設立のアイデアも飛び出した

もう1つ、昔からここで生活してきた80代、90代の人たちは、都市に住むお子さんたちから、「ばあちゃん、じいちゃん、もうそんな不便なところは引き払って、都会へ出てきて一緒に住もうよ」と言われても、「いや、私は生きている限り、この場所におりたい」という方が多いのです。

そうなると、その人たちの移動手段が課題になります。今後ガソリンスタンドの廃業が進んでも、電気自動車なら家で充電すれば動けるし、5Gで自動運転が実現すれば、自分で運転できなくなった高齢者には救いになります。

農業でも林業でも、高齢化と人手不足は共通の悩みです。狭い棚田できめ細かい農業をしていくうえで、こうした地域のやり方に合った農業機械が5Gを活用した機能を備えたら、メリットは大きいでしょう。

もう1つの期待は遠隔授業です。実は、神山にサテライトオフィスを設けたICT企業の人たちは、周辺の学校のプログラミング教育の講師をしてほしいとよく依頼されているのです。徳島県内だけでなく、四国のあちこちで講演や授業をしています。

私自身もいま東京の青山学院大学のビジネススクールで「地方創生実践論 神山プロジェクト」という講義をしています。そうした講義もこれからは東京に行かないで、5Gで遠隔でできるかもしれませんね。

――いいですね。出張講義というと都会から地方というイメージで、地方から都会へ遠隔教育をするという話はなかなか聞かないですね。

大南 神山には大手ICT企業を辞めてレストランを始めたという人もいて、そういう話をビジネススクールですると、社会人の学生から「実は自分も今、新たな道を模索していて」と相談されたりします。

――東京から地方への、人材仲介ビジネスができそうですね。神山では「高等専門学校をつくろう」という話もありますね。

大南 2023年4月の開校を計画していて、いま、ネットで学長学校長を公募しているところです。社会に変化を生み出す力を持った人材「野武士型パイオニア」を育てることが目標です。

神山の強みは現場があることで、身近な現場で自分たちの着想を実験して、こういうことをやれば地域が、社会が変わるかもしれないという新しいものを生み出してほしい。そういう子たちが育っていけば、いろいろな分野で力を発揮してくれるでしょう。

片桐 広逸 総務省 総合通信基盤局電波部 基幹・衛星移動通信課長

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かたぎり こういち / Koichi Katagiri

慶應義塾大学経済学部卒業、米国ジョージタウン大学院修了(公共政策学修士)。総務省(旧郵政省)に入省以降、広く情報通信・ICT行政に携わり、2018年4月から2019年7月まで携帯事業者への周波数割当てやローカル5Gを含む日本の5G推進戦略を担当。全国各地での講演等も多数。2019年7月から現職。

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