「反中国」姿勢をトランプがいきなり強めた事情 パンデミックをめぐる責任論で米中が舌戦

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アメリカの外交専門誌『フォーリン・ポリシー』には、元CIA高官3人が珍しく共同執筆を寄稿し、トランプ政権による情報機関の政治化に関して次のように主張している。

「アメリカがパンデミックに直面している現状において、こうした政治化が行われていること自体が特に懸念される。情報機関に問われている重要な質問事項――新型コロナウイルスは自然界のものか、それとも中国の研究室から流出したものか? 中国政府は伝染病の範囲と規模をどの程度事実を曲げて述べていたか?――への回答は、特に中国に関して、アメリカの安全保障政策の将来に多大な影響を与えることになるであろう。

こうした質問に対してトランプ大統領が求めている回答は知っている。われわれが分からないのは、アメリカの情報機関でキャリアを積んでいる分析官が、真実が分かったときに、その真実を語ることが許されるのかだ」。

中国は故意に感染症を広め始めた

アメリカのマイク・ポンペオ国務長官が先頭に立って、今週世界保健機関(WHO)に送られた、同機関が中国寄りの業務遂行をしていることを批判した4ページの書状を含め、トランプ政権は中国を非難するグローバル・キャンペーンを仕掛けている。

トランプ大統領と側近補佐官たちは、当初中国政府が新型コロナに関する情報を抑止した、またはウイルスそのものが中国の研究所から流出したものだと主張し、同国政府に責任を転嫁することを試みていたが、最近では非難の度合いを強めて、中国政府が故意に感染症を世界に広めたという大胆な告発に動いている。

この1週間の自身のツイートで、トランプ大統領は中国を、「世界中に広めた痛みと殺戮の惨状から逃れるために必死の努力をしている」と批判。反中国政策の主要人物である大統領補佐官であるナバロ氏は先週、ABCニュースに対し、「中国は、数十万という中国人をミラノやニューヨークなど世界各地に旅客機で送り込み、新型コロナウイルス感染症を拡散させた」と語った。

この論法は、当初、チェイニー副大統領の元副大統領首席補佐官であり、現在は政府の中国政策に最も重要な影響力を持つ、保守系シンクタンクであるハドソン研究所の上級副社長であるルイス・“スクーター・”リビー氏により公表されたが、ほとんど顧みられることもなかった。

リビー氏は、4月29日に発刊された保守系誌『ナショナル・レビュー』のエッセイで、習近平中国国家主席と共産党の指導部は当時、複数の重要問題を抱え、脅威にさらされていたと主張する。例えば、香港での抗議活動、独立派台湾政府の再選、中国のイスラム教徒抑圧の暴露、そして中でも最も影響が大きいのはトランプ政権の厳しい貿易政策による中国経済のつまずきである。トランプ大統領が再選に向かう中、習近平国家主席に対する反対意見が党内で高まりつつある、と彼は書き記している。

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