「島耕作」作者が語る団塊世代の定年後のリアル

「弘兼憲史×松本すみ子」定年後について対談

松本:もう1つ、団塊の世代が50歳になったあたりでリストラの波が来ました。今までは順風満帆だったのに、そこで肩たたきに遭って辞める人が出たり、自分が対象にならなかったとしても友達や周囲がそんな状況だったり。そこでかなり傷ついたという経験も、団塊の世代にはあると思うんです。

弘兼:「島耕作」でもそれは描いていますね。これは実話なんですが、僕の松下電器の同期がテイチクレコードに出向になって、「近いうちにテイチクがビクターに身売りするから、その前にきれいにしとけ」と仰せつかった。つまり、リストラしてこいということです。

松本:それはつらいですね。

独立の道を選ぶ人も

弘兼:つらかったと思いますね。それまで一緒に仕事をしてきた仲間に対して、「明日から会社に来なくていい」って言わなきゃいけないわけですから。彼は、リストラを言い渡す前日の夜に居ても立ってもいられなくなって、リストラの対象になった同僚が住んでいるマンションの前まで行ったそうです。

そして、下からその人間の部屋を見上げて、「あいつは今あそこに家族といるんだな、幸せそうな灯りがついているな」なんて思いながら、すごく苦しかったという話を聞きました。

松本:私の知り合いの大手企業の人事部長も切るほうだったんですが、耐えられなくなって自分も辞めたと言っていましたね。

私の友人が勤めていた商社にもリストラの波が来たことがあって、その後カレー屋になったりラーメン屋になったりした人たちがいました。数百人規模のリストラをするので、不安になって、早めに身の振り方を考えようという気になって独立する人もいました。

弘兼 憲史(ひろかね けんし)/1947年、山口県生まれ。早稲田大学法学部を卒業後、松下電器産業(現・パナソニック)に勤務。退職後、1974年に『風薫る』で漫画家デビュー。『人間交差点』で小学館漫画賞(1984年)、『課長島耕作』で講談社漫画賞(1991年)、講談社漫画賞特別賞(2019年)を受賞。『黄昏流星群』で文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞(2000年)、日本漫画家協会賞大賞(2003年)を受賞。2007年、紫綬褒章を受章。『俺たちの老いじたく』『ひるむな! 上司』(ともに祥伝社黄金文庫)ほか、著書多数

弘兼:「とりあえずラーメン屋」は絶対間違えますね。ラーメン屋をやりたい人はラーメン愛のすごく強い、言わば「変態」が多いですから(笑)。新しくできるラーメンって本当にうまい店が多いんですよ。だから「片手間にラーメン屋でも」というのはまず失敗します。

50歳ぐらいから肩たたきが始まるのは、大手銀行が今でもそうですね。支店長までいって、そこから本店に戻れる人間はかなり少ない。大体が52、53歳で「そろそろ出向してくれ」と言われるんです。

そして出向したらしたで、ろくなことがない。例えば出向先が繊維会社だったら、給料は半分でポジションは部長か専務ぐらいになる。その会社の社長には、大手銀行出身だからと期待されるけど、結局は何もできず「無能じゃないか!」とののしられる。僕の知り合いの銀行の支店長もそれで悩んで、自殺せんばかりの手紙を僕に書いてきたことがあります。

松本:銀行内の争いが激しかったんでしょうね。

弘兼:本当にできる数少ない人間だけが本店に残されるけど、それ以外は50歳ぐらいが定年だと思ったほうがいいと言われていますから。

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