「長い耳」なくば「宇宙人」首相は裸の王様で終わる

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「長い耳」なくば「宇宙人」首相は裸の王様で終わる

塩田潮

 鳩山政権が今日でちょうど100日だ。国民との「ハネムーン」が終わる。ところが、支持率が急落し始めた。原因は鳩山首相の指導力と決断力の欠如だが、100日間で早くも「宇宙人」の弱点と、ある種のプラス面の両方が正直に露見したといっていいだろう。
 鳩山首相を最初に「宇宙人」と呼んだのは幸夫人で、「私欲や保身で動く普通の人と違って、別の星からきた宇宙人みたいな人」という言い方をした。だから、長持ちするという見方と、嫌になればさっさと投げ出すのではという予想とが入り乱れる。

 政界では「宇宙人」は、言葉が意味不明、思考の中身も理解不能、発言がぶれる、言いっ放しの無責任人間といった意味で使われてきた。そこは首相の克服すべき課題だ。
 前原、小沢両代表の下で幹事長として「汗かき」「泥被り」を経験して円熟味が出た、厚みが増したという評も耳にするが、根っこは変わっていないようだ。
 一方、思惑や打算で動かない、見かけによらず度胸がいい、俗世間の雑事にデリケートに反応したりしないといった点は「宇宙人」の強みだろう。問題はトップリーダーとしてどうかだ。言い切る強さ、決断したら断固やり抜く鉄の意志と実行力などは期待できない。ただ本質は優柔不断、右顧左眄型ではなく、思い切りのいい即断型と見る。むしろ浅慮、軽率で何度もつまずいた。

 現在の右往左往は、首相の個性の問題だけでなく、情報不足による判断材料欠如が影響しているのではないか。小沢幹事長に接触を求めたがるのは、判断の際の助け船というよりも、政権と与党の生情報を入手したいのだろう。
 最高権力者は「長い耳」が必要だ。第一に自身の耳を「地獄耳」に仕立てる能力が求められるが、官房長官も含め、装置として「長い耳」を装備しなければならない。「脱官僚」路線で、どうやって「長い耳」を持つか。未知の挑戦だが、その壁を超えなければ「宇宙人」は「裸の王様」で終わるだろう。
(写真:今井康一)
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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