5Gで「自分だけの牡蠣」が作れる時代が来る 見えてきた「次世代通信規格」の使い勝手とは

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――日本の場合、現行の4G通信用のインフラビジネスでは中国企業に水をあけられているし、5Gでも日本より早く韓国とアメリカがサービスを始めたことで、「日本は遅れているのではないか? 大丈夫か?」という懸念の声も一部で聞かれます。

中尾:韓国、アメリカとも実際のサービス内容はこれまでの携帯電話の延長にとどまっていて、これといったユースケースはまだありません。5Gの産業や社会分野への応用では、産学官一体でやっている日本のほうが進んでいます。

またNTTドコモをはじめとする通信事業者の取り組みは、世界と比べても上を行っています。日本の通信キャリアは海外のような「単なる土管」ではなく、各社とも自らベンチャーやスタートアップ、ユーザー企業と積極的にパートナーシップを組んで実証実験を行い、ソリューションを開発する方向に向かっていますから。

日本では、免許を交付する際に総務省が全国整備の条件をつけたこと、キャリア同士がエリア拡大競争をやってきたこともあって、5Gでも5年計画で日本全国の面的なカバーを進めていくことになっています。これだけ広範に国土をカバーする計画を立てているのは、世界でも日本ぐらいでしょう。

オンラインで食べたい牡蠣をクリック

――とはいえ全国の自治体でも、広島県のように5Gの利用に積極的なところもあれば、関心が薄いところもあるようです。5Gによる地域創生を全国展開することが課題です。

中尾:広島はまず県知事が情報通信企業の出身でいらして、電波の周波数など専門的な話ができるのです。そういう方はなかなかいらっしゃらないでしょう。

また地元の商工会議所がIoT(モノのインターネット)やAIに期待して投資していこうという強い意欲を持っていて、ひろしまサンドボックスも実は商工会議所の出した資金を補助金として使う仕組みなのです。こういう先進地域でまずモデルケースをつくり、「あそこで成功したのなら、うちも」という形で全国に横展開していければと思っています。

そうした活動の中でも、何か話題になる試みがあると多くの方々に関心を持っていただきやすいですよね。

例えば、われわれは牡蠣好きの方のために、広島で「俺の牡蠣クリック」という企画を考えておりまして(笑)。これは皆さんに水中ドローンをオンラインで操作して、牡蠣棚の中から「この牡蠣が食べたい」と思うものをクリックして選んでいただき、召し上がっていただこうというものです。

来週広島を訪問する予定があるなら、これで気に入った牡蠣を予約して、それを料亭でいただく。あるいは宅配便で自宅まで送ってもらうという構想です。

――牡蠣1個1個が人間のようなIDを持つわけですね。

中尾:魚は泳いでいるので難しいのですが、牡蠣についてはすでにAIによる個体認識ができています。いずれは生きて動いているいけすの魚をクリックして選んで、購入するというサービスも可能になってくるでしょう。一般的には1次産業が後押しする食文化に「オーナーシップ」(生産の段階から所有する)という新しいビジネス要素を入れたいのです。

片桐 広逸 総務省 総合通信基盤局電波部 基幹・衛星移動通信課長

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かたぎり こういち / Koichi Katagiri

慶應義塾大学経済学部卒業、米国ジョージタウン大学院修了(公共政策学修士)。総務省(旧郵政省)に入省以降、広く情報通信・ICT行政に携わり、2018年4月から2019年7月まで携帯事業者への周波数割当てやローカル5Gを含む日本の5G推進戦略を担当。全国各地での講演等も多数。2019年7月から現職。

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