PCR論争があまりにもこじれまくった根本理由 感染症法が定めた「行政検査」の大きな弱点

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吉田邦彦(よしだ くにひこ)/北海道大学大学院法学研究科教授、法学博士(民法)。東京大学法学部卒。法政大学助教授を経て1987年から北大助教授、1996年から現職。アメリカのノースウェスタン、スタンフォード、マイアミ、コロラド大学ロースクールなどで客員研究員・客員教授。昨年11月からは南京師範大学教授を兼ねる。健康や医療にかかわる民事法や居住福祉法に詳しい。61歳。吉田教授はビデオ会議システムで今回のインタビューに答えてくれた(撮影:河野博子)

――PCR検査が3月6日から保険適用になったとき、新聞やテレビは「これで検査は拡充される」「医師が必要と判断すれば、直接、民間検査機関に検査を発注できる」と伝えました。しかし、検査拡大は進みませんでした。現在PCR検査で検体を採取しているのは、帰国者・接触者外来が置かれている医療機関に加え、自治体と委託契約を結んでいる医療機関、医師会が自治体とともに設置しているPCR検査センター、保健所です。この委託契約の条件が厳しかった面もあるようです。

病院は、ただでさえ、普通の患者さんも抱えていて、感染症の患者さんを受け入れるとなるとスペースも必要ですし、今までの患者さんへの対応が滞る。経済的な不利益も被る。感染防備の設備や対策も必要なので、民間の病院や診療所も敬遠したのではないでしょうか。

「自己負担あり」にすればもっと広がった?

――東京都内の保健所関係者の話では、検査(検体採取)をしてもよいと手を挙げた医療機関はあったのですが、行政検査は保険の自己負担分に当たる費用を行政が負担するだけに条件が厳しく、広がらなかったそうです。普通の医療保険と同じ保険適用で「自己負担あり」にすれば、もっと広がったという意見を聞きました。

「100%自己負担はないですよ」というシステムを維持するにしても、検査主体なり入院受け入れ施設を増やす方策はあったと思います。それがうまく広がらなかったのは、なぜなのか。保健所に検査主体を絞り込んで、検査で感染がわかったら限られた感染症指定病院に送り込む、という従来の制度のつくりがあるわけですよね。

これまでの感染症対応としてはそれなりにスムーズに機能していたシステムだと思うのですが、新型コロナウイルスは早期対応が必要なのに受け皿をうまく用意できず、自宅待機とせざるをえなかったのではないでしょうか。入院先が見つかるまで自宅待機していた間に重篤化し、死亡する例も出ましたから、深刻です。

――当初、行政がPCR検査実施に抑制的だったのは、制度上、能力が限られていたからなんですね。その制度の枠内でキャパ不足を解消しようとしたが進まなかった。一方、抑制のマインドは続いた。横倉義武日本医師会長も日本記者クラブで行った記者会見で、「3月に入って感染経路がわからない人が半数を超える状況になってからは、PCR検査をたくさんやっていく方針に切り替えるべきだった」と述べていました。

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