PCR論争があまりにもこじれまくった根本理由 感染症法が定めた「行政検査」の大きな弱点

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――法制度上の仕組みの再検討は、今の段階で必要と考えますか。

必要であると思います。検査できる人や機関を増やしていかないと対応できないと思います。もちろん、例えば東京都民は1398万人もいる。この全員を検査するのか、というと現実的ではないですよね。

しかし戦略上、どのように線引きして検査を拡充するのか、を考える必要はあると思います。せめて風邪やインフルエンザに近い症状の人には広げて検査を行うことは必要ではないでしょうか。

日本社会では、感染者に対する厳しいまなざしもあることから、検査を受けにくいのをいいことに、検査を避けるというような現象も起こる。これは、例えば感染しているかもしれないと思っても検査を受けず、感染の有無がわからないまま行動して、感染を広げてしまうことになります。

――検査の結果、新型コロナウイルスへの感染がわかったところで、現在は治療薬がなく、病院に行っても仕方がない、という印象を受けたのですが、違いますか。

アメリカの報道を見ても、早晩、ワクチンの開発は進むといわれています。1~2年はかかるかもしれませんけど。新薬開発はそれより早い。日本では既存の薬を転用し、承認して広く保険で使えるようにするという方向で進んでいます。感染した場合に治療していく状況はできてきています。人体の免疫反応によるメカニズムもわかってきていて、血栓を取り除くのがカギだとか、治療法に関する工夫についての報道も見られます。

政治的なリーダーシップは解決のカギ

――安倍首相は4月6日に「1日当たりの検査能力を2万件に引き上げる」と表明しました。5月4日の記者会見で、「PCR検査の件数が諸外国に比べて低い理由」を問われ、「目詰まりがどこにあるのか、わからなかった」と述べ、答えを専門家会議の尾身副座長にバトンタッチしました。安倍首相や首相官邸のリーダーシップの欠如にがっかりしました。

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新たな制度をデザインし、作り出していかないと、動けないまま世界から取り残されてしまいます。そのための政治的なリーダーシップは、この問題解決の大きなカギになるわけです。専門家、保健所、医療機関とそれぞれがキャパシティーを超えて一生懸命やっているのが現状です。

しかし、不眠不休でやっている感染症エキスパートの人に、新たな制度を提言できる余力はないかもしれません。長期戦で第2波、第3波に備えることが必要です。どこかに眠っているリソース(資源)もあると思います。それをどう活用して、国民みなで協力してこの事態を乗り越えられるか。感染症の専門家や医療関係者だけでなく、法律や経済の関係者も知恵を出し合っていければと思います。

河野 博子 ジャーナリスト

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こうの ひろこ / Hiroko Kono

早稲田大学政治経済学部卒、アメリカ・コーネル大学で修士号(国際開発論)取得。1979年に読売新聞社に入り、社会部次長、ニューヨーク支局長を経て2005年から編集委員。2018年2月退社。地球環境戦略研究機関シニアフェロー。著書に『アメリカの原理主義』(集英社新書)、『里地里山エネルギー』(中公新書ラクレ)など。2021年4月から大正大学客員教授。

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