コロナとSDGsで「企業変革」は待ったなしだ 伝説の経営コンサルが説く未来戦略のすすめ
全社的に変革を実践している企業として、味の素の事例をご紹介したい。今年に入って、以下のような全社変革の青写真を発表している。
まずASV(Ajinomoto Group Shared Value)を、全社変革の「北極星」として位置づけている。これはハーバード・ビジネススクールのマイケル・ポーター教授が提唱するCSV(Creating Shared Value、共通価値の創造)の味の素バージョンだ。なおCSVに関しては、拙著『CSV経営戦略』をご参照願いたい。
味の素は「食を通じて世界中を健康にする」という同社ならではの熱い志(パーパス)を、ASVとして掲げている。そのうえで、全社変革を大きく3つの変革ウェーブ(波)で実践しようとしている。
・ウェーブ2:幅広い業態とのエコシステム(共創パートナリング)の構築
・ウェーブ3:事業モデル(収益モデル)のイノベーション
これら3つのウェーブ全体にわたって、経営モデルの変革を実現していく。その柱となるのが、有形資産から無形資産へのアセットモデルの転換である。モノやカネを主軸とした20世紀型の経営から、顧客、知識、ネットワークなど、ヒトを主軸とした21世紀型経営への変革を目指す。
この全社変革が画餅に終わらないためには、いかに確実に実践するかが問われる。味の素では西井孝明CEOの下に、3人の「変革仕掛け人」を配置している。CXO(Chief Transformation Officer)、CDO(Chief Digital Officer)、CIO(Chief Innovation Officer)、いずれも副社長、専務、常務クラスだ。
それぞれ上記のウェーブ1、2、3を主に担当しつつ、全社変革の横串機能を担う。また、キャッシュを稼いでいる現業部門を巻き込んで、全社変革にOne Teamとなって取り組めるかどうかが最大のカギを握る。
私も味の素の変革のお手伝いをしているが、まだ緒に就いたばかりだ。今後、いろいろな試行錯誤が予想される。しかしこの骨太な青写真の実践に向けて、全社をあげて不退転の決意で取り組んでいることだけは確かだ。いずれ近いうちに、全社変革の成功事例としてご報告できることをご期待いただきたい。
元祖CSV・渋沢栄一の教え
ところで渋沢栄一翁は、多くの読者がご存じだろう。元祖CSV論ともいうべき『論語と算盤』の著者で、日本を代表する営利企業・非営利団体を500近くも創設した人物だ。最近、新1万円札の「顔」や、来年のNHK大河ドラマの主人公に選ばれ、もっぱら時の人になっている。
尊王攘夷派だった栄一翁は、黒船をトリガーに、近代化路線へと大きく学習転換を果たした。まさに危機を機会に変えることで、日本の資本主義の礎を築いていったのである。その栄一翁が今の時代に生きていいたら、何を思い、どのような明日を目指しただろうか。
渋沢翁の玄孫にあたる渋沢健さんに、最近そのように問いかけてみた。コモンズ投信会長である渋沢健さんは、未来の日本を拓く長期投資家として活躍されおり、私もCSV関連の活動でコラボさせていただく機会が多い。
健さんは、今はまさに「BCからACへの変革期」だと語る。キリスト生誕の前後という西暦の話ではなく。ビフォーコロナとアフターコロナのことである。コロナを一過性の危機ととらえてしまうと何の進化もない。コロナをトリガーとして、非連続な変革をいかに仕掛けるかが、今こそ問われているのだという。
そのためには当面の課題に気をとられることなく、いかに大局観と先見力を持つかがカギとなる。それに対する筆者の答えは、「新SDGs」というキーワードで括ることができる。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら