疫病と自粛疲れから「国民の2つの身体」を守れ 「自然的身体」は「政治的身体」と不可分である

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「5月末」の回答には、終息といっても今回の第1波の流行が終わることだと留保をつけたものもあったとか。

第2波(以後)の流行は別枠なのですね。

終息に至ることなく、季節性の感染症として根付くのではないかという見解もあったとのこと。

アメリカのブルッキングス研究所も、3月2日に発表したレポート「COVID-19が世界のマクロ経済に与える影響〜7つのシナリオによる予測」において、「今後長期間にわたって、そこそこのパンデミックが毎年繰り返される」可能性を想定しましたが、国内だけに限っても前途は多難そうです。

国家は「巨大な身体」である

他方、4月に始まった緊急事態宣言は、5月末の期限を待つことなく、全国の大部分で解除されました。

これから世界で起きること、すでに起こっているにもかかわらず日本ではまだ認識が薄いテーマを、気鋭の論客が読み解き、議論します。この連載の記事一覧はこちら

パンデミックの現状を思えば、解除するにしても、感染の再拡大が生じることを前提にやるべきですが……。

感染症対策を考えるうえで、重要な意味を持つにもかかわらず、見過ごされやすい概念があります。

ずばり、「ボディ・ポリティック」。

普通は「国民」、あるいは「国家」などと訳される言葉ですが、直訳すれば「政治的身体」です。

この概念には、面白い歴史がある。

中世ヨーロッパでは、王は2つの身体を持っているという発想がありました。

1つは王自身の肉体で、これは「自然的身体(ボディ・ナチュラル)」と呼ばれます。

もう1つが、「政治的身体」ことボディ・ポリティック。

政治的身体は目に見えないものの、政府と政策から成り立ち、人々を導いて経世済民を達成するものと位置づけられます。

王の自然的身体は、そのような政治的身体を象徴的に具現化したものと見なされました。

この段階のボディ・ポリティックには、王の支配下にある人々、つまり国民が含まれていなかったようですが、主権国家の概念が出来上がるにつれ、彼らも政治的身体の一部ということになってゆく。

「国」「国民」を意味する「ネイション」が、「出産」「出生」を意味するラテン語「natalis」を語源としていることを考えても、必然のなりゆきでしょう。

国民とは同じボディ・ポリティックから生まれた者同士にほかならず、だからこそ「同胞」(これは本来、兄弟姉妹を意味しています)なのです。

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