日本製鉄が大赤字、傷口に塩を塗り込むコロナ 自動車向け急減、建設工事の停止で異常事態

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日本の年間粗鋼生産量は約1億トンで、そのうち6割が国内に、4割が輸出に回る。中国がアジアなどへの輸出を広げてきた場合、日本勢はこの4割の部分で競争が激化する。

国内向けにも縮小圧力は強まる。国内向けの3分の1、約2000万トンは顧客(製造業)の海外向け、つまり間接輸出だ。コロナによって製造業の「地産地消」の流れが加速すれば、この間接輸出にも逆風となる。そして純粋な内需は、少子高齢化から需要が右肩下がりになるのは見えている。

さらに、国内の競合が勢いづく可能性もある。景気低迷でスクラップ価格が下落。この結果、スクラップを原料に使い電気で溶かして鉄を作る電炉メーカーの競争力が高まっている。高炉メーカーに比べて電炉メーカーの企業規模は小さいが、建設用を中心に高炉のシェアが削られるだろう。

一時的な高炉の休止で済むのか

今後の厳しい事業環境に備え、日本製鉄は2020年2月に呉の製鉄所閉鎖や和歌山の高炉休止を軸とする、国内生産拠点の再編を打ち出していた。続いてJFEも3月に京浜(神奈川県)の高炉休止を決めている。休止とは、恒久的な操業の停止を意味する。

2019年に国内の粗鋼生産は9928万トンと10年ぶりに1億トンを割り込んだ。2020年は「上期でコロナが収束したとしても、(年間で)8000万トンを下回ることになる」(橋本社長)。8000万トンという水準は、業界でいずれ来るとささやかれてきた国内の生産規模である。それがいきなり到来したので、バンキングを続々と決めざるをえないのだ。

日本製鉄がバンキングに踏み切った中で、九州製鉄所八幡地区の小倉の高炉はもともと2020年9月に休止予定だったため、そのまま休止となる。だがこの先、8000万トンという水準が定着するようだと、バンキングから休止となる高炉も増えそうだ。猛烈な逆風が吹きつける中、どれだけ身を縮めて生き残りを図るか。日本の鉄鋼メーカーは難しい判断を問われている。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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