アメリカ株の見方が楽観的すぎると考える理由 経済活動再開の期待は高いが現実は甘くない

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トランプ政権や株式市場が現状想定している、アメリカ経済のスムーズな経済活動再開が実現し、短期間で失われた雇用が急ピッチに復活しながら、経済正常化が順調に進むかどうか。筆者は、実際には、かなりゆっくりとしか経済活動再開が実現しないと予想している。

先に述べたが、アメリカやヨーロッパでは、経済封鎖が緩和され始めたが、もともと極めて厳しい措置が緩和されているだけである。そして、経済正常化の道筋にはいくつかの段階がある。そして、経済活動再開の過程で、ソーシャルディスタンスが徹底される状況は長期化するだろう。

場合によっては、経済活動再開に踏み出しても、再び感染者が増えて経済封鎖に再び追い込まれるなど、経済活動再開への道筋は試行錯誤の繰り返しになるリスクがある。とくに、アメリカでは、経済活動再開の判断は各州の知事などが行うことになるが、大統領選挙を控えた政治情勢が影響する可能性がある。

経済活動再開の判断基準として、新型コロナウイルスの感染者数の持続的な減少などがトランプ政権から示されている。5月11日時点では、爆発的な感染者拡大が起きたNYの中心部を除けば、アメリカの感染者数はほとんど減少していない。一部の州では感染者の動向をあまり配慮せずに、経済活動再開が始まっているとみられるなど、地方政府の経済活動再開の判断の事情や理由は明確ではない。

アメリカの株式市場には「慎重な対応」が無難

仮に、科学的な根拠が重視されずに、何らかの政治事情が経済活動再開の判断に影響するとすれば何が起こるか。時期尚早な経済活動再開が行われることで、かえって経済正常化の実現が遅れるリスクがある。

先に述べたとおり、アメリカの経済正常化の過程では、政治家と当局者によって試行錯誤が繰り返される、と筆者は懸念している。すでに経済の最悪期は過ぎたとみられるが、経済正常化がゆっくりとしか実現しないため、2020年のアメリカのGDP成長率は、リーマンショック後の2009年を大きく超える落ち込みになると予想する。

アメリカ企業の業績に対するアナリスト予想はやや楽観的方向に依然傾いており、今後大きく下方修正される可能性が高い。このため、現在のアメリカの株式市場に対しては、筆者は慎重に臨むのが無難と考えている。

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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