シャープ、「鴻海流再建」にただよい始めた暗雲 乏しい研究資金、4年経っても育たぬ成長事業

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鴻海傘下になって以降(2017年3月期~2020年3月期)の4年間の研究開発費は、毎年1000億~1100億円で推移している。これは鴻海傘下入りする前の2015年3月期の1410億円、2016年3月期の1301億円よりも少ない。

新たな成長柱を築くうえで必要なのは、研究開発の原資となるキャッシュや強固な財務基盤だが、それも厳しさを増している。財務の健全性を示す自己資本比率は2019年12月末で16.3%にとどまる。債務超過に陥った2016年3月期(マイナス2.7%)から改善しているものの、同じ電機大手のパナソニックが29.5%と比べても見劣りがする(2019年12月末)。

ソニーとの違いは一目瞭然

一方、ソニーの自己資本比率は18.7%(2019年12月末)とシャープに近い。ただし、それはソニーが銀行や保険などの金融事業を手がけており、金融事業特有の預金や保険契約が負債勘定に計上されており、自己資本比率をその分だけ押し下げるためだ。

シャープのキャッシュフローの動きをみると、設備投資による支出や経営危機時に発行した優先株の取得・消却による支出が営業活動から得たキャッシュを上回り続けている。そのため、シャープの2019年12月末の現預金は2159億円と、2017年末の3976億円、2018年末の2957億円から年々減少している。一方、2019年12月末の1年以内に返済予定の借入金は2370億円ある。

シャープ広報は「資金繰りは適切に行ってる」としている。確かに、企業の短期的な支払い能力を示す流動比率(流動資産/流動負債)は、2019年12月末時点で125%と、安全性の目安である100%を超えている。また、取引銀行2行と2019年8月に新たなコミットメントライン契約を締結しており、当面の資金繰りは問題ないだろう。

しかし、現状の財務状況でこれ以上の成長投資や研究開発費を捻出するのは容易ではない。そこで、成長資金捻出のためにシャープが目下検討しているのが、主力の液晶事業の分社化だ。事業ごとに外部から資金調達できる体制をつくることや分社化した事業を上場させることによる資金捻出の狙いもあり、2018年10月に東芝から買収したパソコン子会社のダイナブックの上場も検討されている。

新型コロナウイルスによって、市場は企業の財務状態や資金繰りに警戒感を募らせている。そのような環境下、成長投資に必要な資金を確保し、持ち前の開発力を生かした完全復活を果たせるか。シャープは新たな試練を迎えている。

劉 彦甫 東洋経済 記者

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りゅう いぇんふ / Yenfu LIU

解説部記者。台湾・中台関係を中心に国際政治やマクロ経済が専門。台湾台北市生まれの客家系。長崎県立佐世保南高校、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、修士(ジャーナリズム)。日本の台湾認識・言説の研究者でもある。日本台湾教育支援研究者ネットワーク(SNET台湾)特別研究員。ピアノや旅行、アニメが好き。

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