「検察庁法改正案」今さら聞けない大論争の要点

「#抗議します」500万件の裏にある誤解と好機

では、この法案がはらむ問題とは何かを明らかにしていこう。

第1に、なぜ昨年までに準備されていた検察庁法の改正案から、役職定年の例外措置と勤務延長に関する規定が盛り込まれた新たな改正案が提出されたのか。その合理的な理由が明らかにされる必要がある。昨年までの当初案はシンプルに、定年年齢の変更と役職定年に関する規定が置かれるのみであったが、そこから役職定年への例外措置と勤務延長に関する規定が6項分追加されている。

法律家としての合理的な解釈をすれば、黒川検事長の勤務延長に関する閣議決定が多くの批判を浴びたため、行政府のみの判断に委ねず、立法府で真っ向から議論すべきであると考えて提出されたのであろうか。そうであれば三権分立の観点からしてむしろ望ましい姿であり、徹底的にその是非を討論していただきたい。

第2に、役職定年の例外措置と勤務延長が認められる場合の要件や運用基準等が未だに曖昧である点だ。事実として、改正案は検察官に関する一定の人事権を政府に委ねるという点で異論はない。政府は、「恣意的な人事介入が行われる懸念はない」と述べるが、この基準が曖昧なままでは結局政府への白紙委任という形になりかねない。これらの規定が適用されるケースとして、どのような場合を想定しているのか。むしろ、その解釈の基準となる要件や指針を明らかにすることで、「恣意的な人事介入が行われる懸念」を払拭するべきである。

第3に、法案を議論する時期と場所である。政府は、本稿執筆時点で緊急事態宣言を解除しておらず、新型コロナウイルスへの対応が最優先課題となっている。そして、この法案は国家公務員法等改正案として内閣委員会に提出されているが、内閣委員会はまさに新型インフルエンザ等対策特措法を巡る議論もされる場所である。この時期に、この委員会で、上述したような重要な検察人事に関する議論が十分にできるのかという懸念は否定できない。たとえば検察庁法改正案のみを取り出し、検察行政を管掌する法務委員会でじっくりと議論するほうが国民にとって透明性の高い議論が可能なのではないだろうか。

より本質的な問題

以上の疑問点からあぶり出される本質的な問題は、冒頭述べた検察庁という組織の特殊性、独立性に鑑み、内閣による人事権行使をどの範囲で認めるべきかという論点に収斂する。人事権とは、まさしく当事者の人生を決める権利であり、この権利行使の基準が曖昧であると、いかに権利を行使する側(内閣や法務大臣)が配慮しようと、権利行使を受ける側(検察官)は萎縮し、あるいは忖度し、検察権は政治に配慮し始めるおそれがある。

次ページ検察庁法14条の象徴的な意味
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
  • Amazon週間ビジネス・経済書ランキング
  • 日本野球の今そこにある危機
  • コロナ後を生き抜く
  • 日本と中国「英語教育格差」
トレンドライブラリーAD
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
銀行 地殻変動<br>先で待つ「不良債権地獄」の恐怖

コロナ危機を受け、銀行は政府の支援の下、積極的に「傘」を差し出し、融資をしています。しかし融資先には「危ない企業」も含まれ、下手をすれば不良債権によって屋台骨を揺るがしかねません。自ら大きく変わり始めた銀行の近未来を占います。