これまで、無症状の入院患者に対してのPCR検査は保険が適用されず、1人当たり全額自己負担だと2万円程度かかる検査費用を、病院の持ち出しで行ってきた。
大学病院内の検査室はキャパシティをすでに超えており、大学の基礎研究に使用するPCR検査機器などを臨床現場で活用しているという。会見に出席した東京大学や京都大学、東京医科歯科大学などでは、すでに3月から学内にある研究用の検査機器などの活用で、独自にPCR検査を行うためのキャパシティを広げている。
「現場は常に集団感染のリスクにさらされている。事態が刻々と動く中で、とにかくやらなければならないために、病院が身を切って独自に検査を進めてきたがもうもたない」。専門委員長会委員長の嘉山孝正・山形大学名誉教授は、医療機関が自力で対処することの限界を、そう訴える。
ゾーニング困難な介護施設
新型コロナによる集団感染は、医療機関だけでなく、介護施設でも発生している。
「介護現場では懸命に感染を防いでいるが、迫り来る新型コロナウイルスの波に自己努力ではもう間に合わない。破綻の兆しが見えてきている」。全国老人保健施設協会の平川博之副会長は、4月28日に開かれた記者会見で介護現場の窮状をそう話した。
東京・江東区では区内の特別養護老人ホーム「北砂ホーム」の入所者と職員を合わせて45人の感染が確認され、このうち2人が死亡した(5月3日現在)。千葉県内では松戸市と市川市の介護老人保健施設(老健)で集団感染が確認され、県内の新型コロナによる死者のうち半数以上が両施設の入所者だということが明らかになっている。
介護施設で2次感染を防ぐのは、医療機関よりもハードルが高い。介護の現場は「密」が避けられないからだ。「医療よりも介護は濃厚な密着が必要になる。食事を口元まで運んだり、入浴や排せつの介助をしたり、難聴の人には耳元で話さないと介護はできない」(平川副会長)。
入所者には認知症の人も多い。認知症の人が施設内を歩き回れば、感染者がいるエリアとそうでないエリアを分けるゾーニングはできない。誤ってマスクを口に含んでしまうこともあり、認知症の人の感染予防はとくに難しい。
現場の介護スタッフへの負担も大きい。マスクや防護服などの感染防護具が不足する中、感染防御の知識に乏しい介護スタッフも現場に立たざるをえない。家庭内感染の不安からスタッフが出勤できない施設もある。東日本大震災などの災害発生時にはこれまで、施設同士で助け合ってスタッフの応援を呼べたものの、今回は感染リスクから施設や地域間での移動は難しい状況だ。