新型コロナの集団感染、「介護施設」こそ危ない マドリードで死者の7割が入所者との調査も

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1人でも感染者を出せば命取りになる介護施設では、「外から感染者を入れないように籠城を決め込むしかない」と平川副会長は言う。同協会では厚生労働省に対し、新たに入所する人へのPCR検査を優先的に行うように要望している。

とくに病院から自宅に帰るまでのリハビリテーションを担う老健では、約6割が病院からの入所者であり、さらに入所者の出入りも激しい。「感染リスクのある方の入所が多いため、入所する前の検査で安全を確認してから受け入れたい。集団感染を防止するためには有効な対策だ」と協会担当者は話す。

陽性者が出ても入院できない

施設内での感染拡大防止に必要なのは、検査だけではない。感染者が判明した場合にすぐに医療機関につなぐことが必要だが、すぐには病院に入院できていないのが現状だ。

厚労省は高齢者や基礎疾患をもつ人、すなわち介護施設などの入所者は、原則病院に入院させるように都道府県に通知を出している。しかし協会が把握している限りでも、感染者が入院できずに施設に留め置かれたケースは、千葉県松戸市と市川市、富山市、福岡市の4つの老健で起きている。協会担当者によれば、地域のクラスター(感染者集団)発生によって病床が不足し、「保健所などから老健には医師がいるので、そのまま施設にいるように言われた」という。

実際、入院できなかったのは軽症者とされるが、そもそも施設の入所者は介護が必要な高齢者のため病状が安定している人は少ない。急変するリスクは高く、入院する前に施設で亡くなった入所者もいる。同協会では施設内で感染者が発生した場合、入所者が速やかに病院に入院できるよう厚労省に要請している。

介護事業者がこれほど危機感を募らせるのは無理もない。欧州各国では介護施設での死亡率の高さが明らかになってきているからだ。

英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の研究グループによると、新型コロナの死亡者のうちフランスやベルギーでは介護施設の入所者が4~5割を占めている。とくに深刻なのはスペインだ。介護の研究と政策提言をするイギリスの団体「International Long-term Care Policy Network」の発表によると、首都マドリードの新型コロナによる死者のうち、介護施設の入所者が5613人と全体の7割に上っている(4月22日時点) 。

前出の平川副会長は言う。「入所者はあくまで受け身。一般の人の中で感染が広がれば、被害を多く受けるのは弱者になる」。感染弱者を守る対策は急務だ。

井艸 恵美 東洋経済 記者

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いぐさ えみ / Emi Igusa

群馬県生まれ。上智大学大学院文学研究科修了。実用ムック編集などを経て、2018年に東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部を経て2020年から調査報道部記者。

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辻 麻梨子 ジャーナリスト

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つじ・まりこ / Mariko Tsuji

1996年生まれ。早稲田大学卒。非営利の報道機関「Tansa」で活動。現在はネット上で性的な画像が取引される被害についてシリーズ「誰が私を拡散したのか」を執筆している。

 

 

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