三井物産、5割減益予想に透けるコロナの深刻度 原油や鉄鉱石など資源事業への影響は不可避

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ほかの総合商社に比べて多くの原油権益(2019年3月期で日量6万7300バレル)を持つ三井物産にとって、原油価格の低迷が足かせとなっている。安永氏は5月1日の決算会見で、コロナ収束後に「(原油の)需要がすぐ戻るとは思っていない」と慎重な見方を示した。

世界的に拡大するとみられていた航空需要はコロナ影響で激減し、移動が制限されたことでウェブ会議やテレワークが浸透している。その結果、コロナ収束後のエネルギー需要の推移は従来の想定と異なるものになる可能性がある。安永社長は今回の決算会見で、原油権益のポートフォリオの見直しを示唆している。情勢の変化に伴い、三井物産が保有する原油権益で相対的に競争力が低いものは売却し、資源事業の強化を図るものとみられる。

また、4年前の赤字決算以来、安永社長が力を入れてきた非資源事業にもコロナ影響が及ぶ。成長分野に位置づけるヘルスケア事業では、2018年11月に約2300億円を投じてアジア最大の民間病院グループIHHの筆頭株主になった。アジアの医療需要は今後も拡大が見込まれる領域で、高度医療などを提供するIHHを通じてヘルスケア領域の拡大を図る狙いがあった。

景気後退局面でも安定的に利益を稼げることがヘルスケア事業の特長の一つだったが、「足元ではコロナ対応(感染者に対する治療)を行っている」(安永社長)ため、通常業務の稼働率が低下している。IHHは年間600万人超の外来患者と年間60万人の入院患者を抱えている。治療データを活用した疾病管理や遠隔診断への応用など新たなサービス創出の可能性が期待されている。だがそれも、コロナを乗り越えないことには始まらない。

残る総合商社大手は見通しを出すか

新中計で示した2023年3月期の純利益目標は4000億円と、2020年3月期実績(3915億円)とほぼ同じ。2021年3月期に利益が大幅に落ち込んでから元の水準に回復させるシナリオだが、コロナの影響次第で中期経営計画の目標数値が上にも下にも修正される可能性がある。

具体的な取り組みの中で注目すべきは、前中計に続いて「非資源事業の成長」を打ち出したこと。 前中計期間では非資源事業の純利益目標(2000億円)は未達となったが、2023年3月期は2400億円を目標に設定。2020年3月期の純利益1611億円から5割増を目指す。すでに受注済みの複数の発電プロジェクトなどによる上積みを見込んでおり、「機械・インフラ、モビリティー分野を主軸として、3年間に収益の立て直しが期待できる」(安永社長)としている。

三井物産の決算はこれから発表される総合商社の業績を吟味する物差しになりそうだ。三井物産は2021年3月期の業績予想策定に当たって、コロナ影響は2020年7月から徐々に改善し、10月から解消されるという前提を置いた。一方、4月30日に決算発表した双日は6月末で収束するという前提で、2021年3月期の純利益は400億円(前期比34.2%減)と公表した。双日よりも三井物産のほうが慎重にコロナ影響を織り込んだといえる。

総合商社大手の決算は、5月7日に丸紅、5月8日に三菱商事、伊藤忠商事、住友商事の発表で出揃う。コロナの収束時期が見通せない中、残る4社はどのような前提で業績見通しを出すのか。

大塚 隆史 東洋経済 記者

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おおつか たかふみ / Takafumi Otsuka

広島出身。エネルギー系業界紙で九州の食と酒を堪能後、2018年1月に東洋経済新報社入社。石油企業や商社、外食業界などを担当。現在は会社四季報オンライン編集部に所属。エネルギー、「ビジネスと人権」の取材は継続して行っている。好きなお酒は田中六五、鍋島。

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