この後、アメリカ連邦政府は航空産業など、個別の産業に対する救済を実施するだろう。その過程においては、大企業の国有化も十分に考えられる。これが10年前であれば、小さな政府を標榜する共和党の財政タカ派が歯止めになっていただろうが、トランプ政権下で彼らはどこかへ行ってしまった。今は共和党も民主党も「大きな政府」である。
思えば、リーマンショックの際には「ウォール街」という悪玉がいた。だから救済策は評判が悪く、不良債権買い取り策などは議会で一度は否決されたほどである。しかし今回は誰も悪くはない。悪いのはウイルスであって、それが甚大な被害をもたらしている。だからこそ救済策は素早く、巨大なものでなければならない。そして「感染症対策」は国を挙げて、たぶんに強権的に行わなければならない。
その昔、ドイツの社会学者ヴァルナー・ゾンバルトは、「アメリカにおける社会主義は、ローストビーフとアップルパイの前に頓挫する運命にある」と喝破した 。アメリカは豊かな国であり、誰もが社会的上昇感を得ることができる。そんな国は、社会主義とは無縁であろう、というのである。
「資本主義維持か社会主義化か」の構図で見る局面も
ただしアメリカにおける豊かさが失われ、社会のモビリティが低下すればどうなるか。これまでのアメリカでは、常に新たな移民がやってきて社会の最下層を形成してきた。するとそれ以前の移民は自動的に中流化し、次の世代はほぼ確実に親の世代よりも豊かになることができた。これが「アメリカンドリーム」なるものの正体であったとすれば、この図式はすでに怪しくなっている。
この問題に対するトランプ大統領の処方箋は、新たな移民を制限するとともに、保護主義を発動して他国に責任を転嫁するというものであった。このことは経済学的には間違っているはずなのだが、政治的には一定の成功を収めている。今後のコロナ収束が早ければ、再選も十分に果たせるだろう。
しかし、われわれはすでに歴史的な大変動期に突入しているのかもしれない。大きな戦争を体験した後のアメリカは、いつも大きく変化してきた。そうだとすると、今年の大統領選挙は「トランプとバイデン、どっちが勝つか」ではなくて、「アメリカは資本主義のままでいられるのか、それとも社会主義に向かうのか」というやや大袈裟な構図でウォッチしていく必要があるのではないか。
あまり被害の大きくない日本に居ると、感覚が思い切りズレているかもしれず、その点が気がかりなのである(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースを予想します。あらかじめご了承ください)。
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