沢木耕太郎が説く「偶然の出会いに身を委ねよ」

国内旅のエッセイ集『旅のつばくろ』より

私は軽井沢というところにあまり親しみを感じていなかった。もちろん、何度か取材で訪れたりしていたが、いわゆる観光客として行ったことがなかったので、「雲場池」なるものの存在を知らなかったのだ。しかし、この偶然を生かさない手はないと思えた。

軽井沢駅で降りると、老婦人が教えてくれたとおりに循環バスに乗った。すると、10分足らずで停留所に着き、そこから歩いて5分もしないところに「雲場池」はあった。その「雲場池」は、湖というには小さすぎるが池としてはかなり大きなものだった。

息を呑む美しさ

そして、私は、その池の周りを歩きはじめて、息を呑んだ。木々に、赤から黄色に至るさまざまな暖色系の色の葉が重なるようについている。

街のすぐ近くで、このように見事な紅葉を見られるということが奇跡のような気がするほどのものであり、生で、しかも間近で見た紅葉には、パンフレットの写真の美しさをはるかに凌駕する奥行きと色の複雑さがあった。それは、小海線の車窓から見たものとはまた別の種類の「絶景」だった。

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もし、あの列車であの老婦人が私と向かい合わせの席に座らなかったら、そして、私がたまたま広げたパンフレットの表紙を眼にしなかったら、あえて見知らぬ私に声を掛けようなどとは思わなかっただろう。

ただ、午前中に見た紅葉への感動が、私にも見させてあげたいという思いに結びついた。

そして、私はといえば、その老婦人の勧めに素直に従ったおかげでとんでもない「御褒美」を貰った。これもまた偶然というものに柔らかく反応することのできた私への、旅の神様からのプレゼントだったのかもしれない。

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