原油はもはや「粗大ゴミ」になってしまったのか 「史上初のマイナス」後の原油価格はどうなる

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もっとも、今回は現物市場が極端な供給過剰状態に陥る中で先物市場が納会を迎えるという、極めて特殊な状況下で起こった現象だ。マイナスにまで価格が下がったのは5月限だけだ。次に中心限月となる6月限は、15ドル前後で推移している(NY時間21日午前)。

もちろん、6月限も1カ月後には納会を迎えるわけであり、その時に現物市場が今の同じような状況にあれば、再びデリバリー絡みの急落が見られる可能性もある。だが、恐らくは状況も変わっているはずだ。

足元で極端な供給過剰に陥ったのは、3月6日に開かれたOPECプラスの会合が物別れに終わり、逆切れしたサウジアラビアが出荷価格を大幅に引き下げ、生産を増やしたことが遠因となっている。こうした事情もあって、アメリカの原油輸入は4月に入っても、それ以前とほぼ同じペースで行われていた。

また、価格低迷によって業者の破綻が懸念されている同国内のシェールオイル生産も、4月に入ってようやく減少してきたものの、それまでは過去最高の水準で推移していた。こうした状況下でガソリンの需要が通常の半分近くにまで落ち込んだのだから、国内需給が一気に弱気に傾き、在庫の積み増しが進んだのも当然だ。

長期的な価格上昇のシナリオを変える必要はない

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今後はさすがにアメリカ国内の供給が大幅に減少することが予想される。今回のような価格急落を受けて、シェールオイル業者のみならず、通常の油田の生産者もさすがに生産を削減するようになるだろう。

また、サウジを中心にOPECプラスが追加減産を打ち出す可能性も、高いと考えておくべきだ。さらに現在アメリカに向かっているタンカーのオーナーも、このまま同国に持ってきても売れないのが明白な状況下、恐らくは必死で転売先を探しているはずである。

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一方、価格の暴落を受けて備蓄の積み増しペースを速めている中国が、新たな買い手として浮上してくる可能性は高い。もし輸送コストが余計に掛かったとしても、アメリカから中国に行き先を変更する方が有利となれば、転売が成立するのではないか。

このように、5月になればOPECプラスの大幅減産が始まり、6月以降のアメリカの輸入はさらに減少することになる。新型コロナウイルスの終息はまだかなり先になる恐れが高く、需要はまだしばらくは回復してこないかもしれないが、供給減少でさすがに過剰状態はある程度解消されると見て良さそうだ。

需要が回復してくるまでは、価格も10ドル台~20ドル台で低迷することになるだろう。だが、そうした期間が長ければ長いほど、生産を停止する油田も増加、生産の再開がままならなくなってくる。新型コロナウイルスがいつ終息に向かい、経済活動が再開するのかはまだ分からない。

だが、その際には生産の回復が需要の伸びに追いつかなくなり、今度は短期的に極端な供給不足状態が生じる可能性は高い。一時的にせよ60ドル、場合によっては80ドルまで価格が急騰することも、十分にあり得る。価格がマイナスになっても、長期的な価格上昇のシナリオを、変える必要はなさそうだ。

松本 英毅 NY在住コモディティトレーダー

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まつもと えいき / Eiki Matsumoto

1963年生まれ。音楽家活動のあとアメリカでコモディティートレードの専門家として活動。2004年にコメンテーターとしての活動を開始。現在、「よそうかい.com」代表取締役としてプロ投資家を対象に情報発信中。NYを拠点にアメリカ市場を幅広くウォッチ、原油を中心としたコモディティー市場全般に対する造詣が深い。毎日NY市場が開く前に配信されるデイリーストラテジーレポートでは、推奨トレードのシミュレーションが好結果を残しており、2018年にはそれを基にした商品ファンドを立ち上げ、自らも運用に当たる。ツイッター (@yosoukai) のほか、YouTubeチャンネルでも毎日精力的に情報を配信している。

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