原油はもはや「粗大ゴミ」になってしまったのか 「史上初のマイナス」後の原油価格はどうなる

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現物市場で供給が不足している場合には、先物の売り手がデリバリーに必要な商品を調達することが出来なくなり、先物市場で買い戻すことによってポジションを解消せざるを得なくなる。

一方買い手も、そうした状況は百も承知である。焦ってポジションを手仕舞う必要はないので、売り手が切羽詰まって買い戻しを入れてくるのを、手ぐすねを引いて待っていればよいのだ。売り手は現物を調達することが出来ず、受け渡しの不履行に陥るのを避けるため、最後は価格などお構いなしに買いを入れてくることになる。こうした状況を業界ではスクイーズと呼んでおり、一度そうした状況が起これば、20%や30%は簡単に価格が急伸してしまう。

一方今回は、スクイーズとは全く逆の現象が起こってしまったというわけだ。新型コロナウイルスの感染拡大によって、アメリカの国内でガソリンを中心に需要が大幅に減少してしまった。市場が極端な供給過剰に陥る中、ここ1カ月ほどは在庫が急速に積み上がっていた。

取引所によって受け渡しの地点に指定されている、オクラホマ州クッシングの在庫は特に積み増しのペースが速く、4月15日に発表された米エネルギー省の在庫統計では、貯蔵施設の能力限界に近いところまで在庫が増加、関係者の間では話題となっていた。

需要が大幅に減少し、しかも貯蔵施設もほぼ満杯という状況では、だれも現物の原油など欲しがらない。実は、現物市場では先週17日の金曜日にテキサス州産の現物価格が1バレル=2ドル台に急落するなど、先物市場よりも一足先に価格崩壊が起こっていたのである。

お金を払ってでも「粗大ゴミ」を引き取ってもらいたい

油田というものは、一度掘削機のスイッチを切り、生産を止めてしまうと次に生産を再開する際には多大なコストが生じる。そのため、たとえすぐに原油が売れなくとも生産を続ける方が安上がりになるという特殊事情がある。

貯蔵施設に余裕がある時はそれでも良かったのだが、施設が満杯になってきたことで事情が変わってきた。何とかして買い手を見つけ、手持ちの原油を裁かなければ、生産を続けることも難しくなってきたのだ。

いよいよ現物市場で売ることが難しくなった生産者にとって、残された最後の手段となったのが、先物市場で売って、そのままデリバリーをするという方法だったというわけだ。

価格がマイナスになっても先物市場で値下がりが続いたのは、こうした生産者からの売りが止まらなかったことが背景にある。価格がマイナスになるということは、売り手が買い手に対して支払いをするということだが、生産者にとっては「たとえお金を払ってでも、なんとか現物をさばきたい」ということだったわけだ。

分かりやすい例でいえば、家庭の粗大ゴミの処分に似ている。もちろん家電製品でもモノによってはリサイクルショップで買い取ってくれることもあるが、型番が古くなって誰も欲しがらないものまでは、さすがに買い取ってくれない。

そうしたものは粗大ゴミとして処分するしかなく、場合によっては業者に手数料を払って引き取ってもらうこともあるはずだ。需要がなくなり、誰も買いたがらない今の原油は、生産者にとってまさに、粗大ゴミ以外の何物でもない。貯蔵施設も満杯となってしまった今は、たとえお金を払ってでも引き取ってもらいたい、無用の長物ということなのだろう。

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