沢木耕太郎が明かす「情熱で人を動かす方法」 国内旅のエッセイ集「旅のつばくろ」より

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永さんの第一の仕事が終わると、私たちは秋田駅から大館駅までの奥羽本線の列車に乗った。そして、結局、秋田駅から大館駅までの列車の中だけでなく、永さんが大館で秋田犬にまつわる第二の仕事をこなしたあと、さらに大館駅から青森駅までの列車の中でもインタビューを続けることができたのだ。

その不思議な移動のおかげでインタビューはかなり面白いものになった。永さんのように他人の話をまとめるのが上手な人にとっては、並のライターのインタビューのまとめ方というのが常々うんざりさせられるものだったのかもしれない。だから、できるだけインタビューを避けようとした。

永さん流の「レッスン」だった

私がまとめたインタビュー記事に永さんが満足してくれたかどうかはわからない。しかし、いまの私には、あれは永さん流の「レッスン」だったのではないかという気がしないでもない。ジャーナリズムにおいても、こちらが情熱をもって事に当たれば、人を動かし、現実を動かすことができるということを教えてくれるレッスンだったのだと。

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実際、その直後に、最も忙しい時期だったはずの小澤征爾氏をインタビューしなくてはならないときにもその教訓は生かされた。

インタビューが可能な時間は東京から名古屋までの新幹線の中しかないという。私はそれで充分と応じた。

その結果はどうだったか。新幹線の中だけでなく、新幹線を降りたあとも、名古屋の市内で小澤さんがどうしても食べたかったという味噌煮込みうどんを一緒に食べながらインタビューを続けさせてもらえることになった。

いやいや、それだけでなく、演奏会が終わったあとも、インタビューならぬインタビュー、つまり人と人との話を続けることができることになったのだった。

そんなことが可能だったのも、どのような状況でもこちらに情熱があることを示せば人を動かせる、という永六輔氏のレッスンのおかげだったように思えるのだ。

沢木 耕太郎 作家

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さわき こうたろう / Kotaro Sawaki

1947年東京生れ。横浜国立大学卒業。ほどなくルポライターとして出発し、鮮烈な感性と斬新な文体で注目を集める。79年『テロルの決算』で大宅壮一ノンフィクション賞、82年『一瞬の夏』で新田次郎文学賞を受賞。その後も『深夜特急』『檀』など今も読み継がれる名作を発表し、2006年『凍』で講談社ノンフィクション賞、13年『キャパの十字架』で司馬遼太郎賞、23年『天路の旅人』で読売文学賞を受賞する。長編小説『波の音が消えるまで』『春に散る』、国内旅エッセイ集『旅のつばくろ』『飛び立つ季節 旅のつばくろ』など著書多数。

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