地頭力で対応するコロナ後の「未知の未知」 「想定外を想定する」ことができるかどうか

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ここまで述べてきた「3つの領域」を普段の仕事に当てはめると次のように定義することができます。

「問いがあるか?」「答えがあるか?」。答えがあるか、ないかで考えると「問いも答えもある」のが「既知の既知」でこれは仕事でいうところの「ルーチンワーク」になります。

続いて「問いはあるが答えがない」という領域はいわゆる「既知の未知」で「問題解決」の対象領域です。

最後の「問いも答えもない」のが「未知の未知」で「問題発見」の領域になります。

要は「問題解決」とは「既知の未知」を「既知の既知」に変える行為で「問題発見」が「未知の未知」を「既知の未知」に変える行為です。

「アルファ碁」に代表される近年のAIの発展のインパクトは、「問題さえ明確に定義されてしまえば、あとはAIが問題を解いてしまう」という点にあります。これは機械が人間より優れた能力を発揮する領域が「既知の既知」の領域のみならず「既知の未知」にも足を踏み入れ始めたことを意味しています。

その意味で人間が優先的に取り組むべき課題は、「未知の未知」の領域に目を向ける、つまり問題発見になってきていることになるでしょう。

ところが私たちは日常、「既知の未知」をもって世界のすべてであると勘違いしてしまっていることがあります。例えば、リスク管理における「想定外」という言葉は、それを端的に示しています。「未知の未知」を意識するとは、つねに「想定外を想定しておく」ことを意味しています。

また、それに関連して、近年、情報漏洩の発覚で企業の謝罪会見等が行われて、その「管理の甘さ」が指摘されたりしますが、むしろ「漏洩されたことがわかっている」ということは、それなりに管理が行われているからで、本当にまずいのは「漏洩されていることに気づいてすらいない」企業であることは明白でしょう。

もう1つ例を挙げます。「あの人は裏表がない人だ」という表現がよく用いられますが、よく考えると、これもある意味で「無知の無知」を露呈した言葉と言えます。そもそも「裏表がない」と信じている時点で「実はその人には(誰にも見えていない)裏があるのかもしれない」という仮定を放棄していることになるからです(ミステリーの犯人はたいていこのような「裏表がなさそうな人に実は裏があった」というパターンです)。

さらに言えば、大きな災害や事故が起こったときに多くの人が口にする「ここまでは想定していなかった」というものがあります。東日本大震災のときの地震や津波しかり、です。

コロナ後の「未知の未知」に対応できるか

ここまでお話しすれば、今まさに私たちが直面している新型コロナウイルスに伴う状況が(ビル・ゲイツや一部専門家のような人たちを除けば)この想定外だった「未知の未知」の領域に属することであると言えます。もちろん「想定できないことを想定しておく」のが無知の知のスタンスだとしても「それがいったい何なのか」を予想することはできません(予想できたら、それは「既知の未知」になるからです)。

それならば「結局、準備ができない」という点では同じだから、「無知の知のスタンスに何の意味があるのか?」と思った人もいるでしょう。違いが出るのは、このような「未知の未知」を見たときの対応においてです。

「既知の未知」までしか普段見ていない人は、このような「未知の未知」に直面したときにその状況をいつまでも認めることができずに否定にかかります。ところが逆に「無知の知」を意識している人は、このような状況に直面したときに「自分の考えが甘かった」あるいは「そういう視点がなかった」とすぐに自分や現状のシステムそのものを起こった事象に合わせて変えようとするのです。

上の画像をクリックすると、「コロナショック」が波及する経済・社会・政治の動きを多面的にリポートした記事の一覧にジャンプします

今回の新型コロナウイルス問題に当てはめれば、大きく2通りに反応があることに気づけるでしょう。1つ目の反応は、あくまでもこれはイレギュラーなものだから、「嵐が通りすぎるのを待って通常に戻るのを待つ」というものです。対してもう1つの反応は、「もしかするとこれが新しい常識かも知れない」という認識で、自らのビジネスや価値観を現状に合わせて(破壊的に)変えてしまおうというものです。テレワークへの対応の違いがわかりやすい例です。

もはやコロナ関連のリスクは「既知の未知」の範疇に入ってきました。さて次の「未知の未知」はいったい何なのでしょうか? むしろ災害後は皆「羮(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」状態になるため、いまや「猫もしゃくしもオンライン化」となっていることを考えれば、例えば、次の脅威はコンピューターウイルスによる「世界同時感染」なのかもしれません(そう言葉にした時点でこれはもう「既知の未知」です)。想像もできないものである可能性もありますが、想定できることは「想定できないことが起きる」ということだけです。

もちろんこれはポジティブなことにも当てはまります。現状の「既知の未知」は経済や教育環境の悪化などのネガティブなことばかりかもしれませんが、逆に「想定もしていない良い未来」が来る可能性も領域によっては十分考えられます。

このように、つねに「未知の未知」の領域を意識した「無知の知」の姿勢でいることで、イレギュラーな事象についても変化を恐れず柔軟な対応を考えられるようになり、思考停止に陥るのを防ぐことにもなるのです。

細谷 功 ビジネスコンサルタント、著述家

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ほそや いさお / Isao Hosoya

1964年、神奈川県生まれ。東京大学工学部卒業後、東芝を経てアーンスト&ヤング・コンサルティング(クニエの前身)に入社。2009年よりクニエのマネージングディレクター、2012年より同社コンサルティングフェローとなる。問題解決や思考に関する講演やセミナーを国内外の大学や企業などに対して実施している。

著書に『地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」』、『アナロジー思考 「構造」と「関係性」を見抜く』『問題解決のジレンマ イグノランスマネジメント:無知の力』(以上、東洋経済新報社)などがある。

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