コロナ危機がハリウッドに招いた思わぬ副作用 ロサンゼルスから消えた「ハエのような存在」

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だが、これまで培ってきた技術をほかに活かせないままの人たちもいる。パパラッチだ。

セレブが大勢住むうえ、ヨーロッパのように法律が厳しくないロサンゼルスには、スターの写真を勝手に撮ってはゴシップサイトや雑誌に売り込むパパラッチが、昔から多数存在する。彼らはそれぞれに、空港や撮影現場、人気レストランの前など、「島」をもっているそうだが、外出禁止令が出て以来、スターはそのどこにも現れはしない。

最初のほうこそ、スーパーで食品を買い込むセレブをキャッチできたりしたものの、次も同じパターンだと、買い手がつかない。家の前で待つというのは駆け出しの頃にやることらしいが、それをやったにしても、家から出てこないのだからどうしようもない。

さらに、「家にいましょう」というメッセージを送るために、今やセレブらは、ソーシャルメディアを通じて、家の中にいる普段の姿を自ら発信したりしているのだ。『サタデー・ナイト・ライブ』でも、ハンクス家の広々したキッチンが背後に出てきた。

家の外にいるのが遠くからちらっと見えるだけのパパラッチ写真より、普段覗き見することができないそちらのほうが、ファンにしてみたらずっとおもしろい。

パパラッチは同情さえしてもらえない

そもそもパパラッチは、ハリウッドにおける厄介なハエのような存在だ。彼らも彼らで、自分たちに写真を撮られるのは「有名税」だと開き直ってきた。そんな彼らだから、ほかと同じようにコロナの被害に苦しめられていても、誰からも同情してもらえない。失業保険はもらえても、彼らを救う基金を作ってくれる人はない。

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だが、彼らにも生活はあるし、家族もある。それは、間違いない事実。彼らもロサンゼルスの住民であり、ご近所さんだ。コロナに感染してほしくないし、ほかの人にうつすこともしてほしくない。

外に出ても獲物がいない今、自分と家族、コミュニティの安全のために、彼らもまた外出禁止令を守り、家にこもってくれることを願うばかりである。

猿渡 由紀 L.A.在住映画ジャーナリスト

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さるわたり ゆき / Yuki Saruwatari

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

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