「酸素吸入器付き資本主義」に導くコロナ危機 「戦時経済」「長期停滞」の先にある社会主義化

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縮小

例えば、財政の規模は、戦時中、軍事費の膨張により肥大化する。ところが、戦後、軍事費は縮小しても、財政規模全体は戦前の水準には戻らないのである。この現象を「置換効果」と言う。実際、1929年時点の英仏独のGDP比中央政府支出は15%程度、アメリカはわずか3%であったが、戦争を挟んで、1962年時点では英仏が約25%、独が約20%、アメリカに至っては約18%とおよそ6倍になったのである。

さて、今回のコロナ危機では、各国とも、戦時経済の様相を呈している。もし「置換効果」が働くならば、コロナ危機が去った後も、国家の経済管理は、コロナ発生以前の水準には戻らないということになろう。

しかも、欧州では政府支出がGDPの40%以上を占める国が少なくなく、フランスなどは55%を超えていた。ちなみにアメリカは約35%、日本は約37%である。コロナ危機では、これに加えてさらにGDPの1~2割の規模の経済対策が行われている。ここで「置換効果」が働くなら、GDPの半分かそれ以上を政府支出が支えるような経済が出現することになる。そのような経済は、シュンペーターに言わせれば、ほぼ「社会主義」であろう。

財政政策なしに機能しなくなった資本主義

コロナ危機に加えて、もう1つ、社会主義化へと向かう重要かつ長期的なトレンドがある。21世紀の各国経済は、ローレンス・サマーズの言う「長期停滞」に陥っている。「長期停滞」とは、投資機会が不足し、低金利と低成長が持続する状態である。これに加えて、コロナ危機がデフレ圧力を発生させているから、世界経済の停滞は、より深刻かつ長期化するであろう。

さて、低金利やディスインフレ・デフレに陥ると、民間銀行による信用創造は困難になる。ここで、シュンペーターが、資本主義の決定的な要素は「民間銀行による決済手段の創造」にあるとしていたことを想起されたい。その「民間銀行による決済手段の創造」が低金利やデフレによって阻害されるということは、経済システムが資本主義ではなくなるということだ。

サマーズは、長期停滞下においては、政府が積極的な財政出動を行わなければならないと主張している。さらに、コロナ危機下では、大規模な財政支出がなければ経済を維持できないことは、誰もが認めるところである。

このように、財政政策が支えなければ機能しなくなった資本主義を、シュンペーターは「酸素吸入器付きの資本主義」と呼んでいた。「酸素吸入器付きの資本主義」とは、社会主義への道の途上にある、瀕死の資本主義の姿である。コロナ危機によって、資本主義にも酸素吸入器が必要となったのである。

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最後に、誤解を避けるために付言しておくと、私は、資本主義より社会主義のほうが優れていると考えているのではない。

ただ、コロナ危機下の戦時経済と、それ以前からの傾向である長期停滞の2つを踏まえれば、今後は、公的部門の役割がより大きい経済構造にならざるをえないだろうと予測しているだけである。本稿は、シュンペーターの議論と同様、イデオロギーではなく、経済の構造や特徴を論じているにすぎないのである。

したがって、イデオロギー上の理由から、社会主義を拒否して、公的部門の役割をあえて縮小するという選択肢をとることを否定はしない。ただ、酸素吸入器なしで資本主義が機能し続けるかは、保証の限りではないというだけである。

中野 剛志 評論家

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なかの たけし / Takeshi Nakano

1971年、神奈川県生まれ。元・京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治経済思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院より優等修士号、2005年に博士号を取得。2003年、論文‘Theorising Economic Nationalism’ (Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)、『奇跡の社会科学』(PHP新書)などがある。

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