コロナ危機と戦時との違いの第2は、敵の所在である。戦時の場合は、敵は他国であり、かつ明確である。これに対して、コロナ危機の場合は、敵は見えにくいウイルスであるうえ、同じ国民から感染する(攻撃を受ける)こととなる。とくにコロナウイルスについては、軽症や無症状の場合があるため、感染者が自覚しにくく、感染抑止のための協力行動をとりにくい。
つまり、共通の敵が明確な戦争の場合とは異なり、国民がコロナウイルスと戦うために自発的に一致団結することが、より難しくなるのである。
ただし、国民が自発的な感染抑止の行動をとりにくいのであれば、国民に行動変容を促し、場合によっては強制する国家の役割はなおさら重要となるのであり、その意味では、やはり戦時経済に似てくる。
シュンペーターが予言した「大転換」
このように、戦時経済とコロナ危機下の経済とでは、大きな違いがありながらも、IMFの指摘どおり、公的部門の役割が増大するという点では同じである。
パンデミックの収束は、現時点では見通せず、長期化の可能性も指摘されている。仮に、長期化すると、各国の経済システムはどうなるのであろうか。
結論から言えば、ジョセフ・A・シュンペーターが予言した大転換がついに起きる可能性があると私は考える。
その大転換とは、「資本主義から社会主義への移行」である。
「何をばかなことを」と一蹴する前に、まずは、シュンペーターの言う「資本主義」「社会主義」の意味を理解してもらいたい。
シュンペーターによれば、「資本主義」とは「生産手段の私有」「私的な利益と私的損害責任」「民間銀行による決済手段(銀行手形や預金)の創造」を特徴とする。とくに重要なのは、「民間銀行による決済手段の創造」であり、これが欠けた社会は「商業社会」ではあっても、「資本主義社会」ではない。
他方、「社会主義」について、シュンペーターは単に「何らかの公的権威が生産プロセスの管理を行う制度」といった程度にしか定義していない。それは、私有財産の否定とか計画経済とかいった、かつてのソ連のような社会主義体制だけを指しているのではない。公的部門による関与が大きい経済システムのことを指して、広く「社会主義」と呼んでいるのである。
そのシュンペーターは、第2次世界大戦後の変化を見て、社会主義への移行が進むと診断した。確かに、戦後の経済システムは、それを「社会主義」と呼ぶかは別にして、ケインズ主義的なマクロ経済運営、労働規制の強化、福祉国家など、国家の経済管理が戦前とは比べものにならないほどに強化された。
なぜ、第2次世界大戦を契機として、国家の経済管理が格段に強まったのか。それは、戦時経済の名残である。
総力戦においては、国家は、国民や資源を戦争のために総動員するため、国家による経済管理が格段に強まる。問題は、その経済管理が戦後も残存するということだ。
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