トランプ大統領の「期待」を裏切る原油相場 異例かつ大規模な協調減産でも価格は動かず

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大規模な協調減産がまとまったものの、石油業界関係者の間で「原油価格を上昇させるだけのインパクトに欠ける」との見方が根強い。

実際、緊急会合の初日である4月9日に1バレル22・76ドルだった原油価格は、協調減産が決まった後の4月13日でも22・41ドルとほぼ変わらない。新型コロナウイルスによる原油需要減は「日量2000万~3500万バレル」(石油業界関係者)ともいわれ、減産効果よりも需要減がはるかに大きいとみられている。

今回の協調減産は2020年5月から始まる。「過去の事例を見る限り、ロシアはある程度の減産でお茶を濁すのではないか」(日本貿易振興機構・アジア経済研究所の福田安志・名誉研究員)との指摘もあり、日量970万バレルという数字も確約されたわけではない。

もともと、ロシアが2020年3月のOPECプラス会合でサウジの提案を拒否したのには理由があった。協調減産によって原油価格を下支えしても、それを尻目にアメリカのシェール企業が原油増産を進め、利益を享受している構図を問題視したのだ。

G20で注目されたアメリカの発言

そのため、OPECプラス以外の産油国、とりわけアメリカをその枠組みに取り込めるかどうかがひとつの焦点だった。OPECプラスの緊急会合の翌日、2020年4月10日に開かれたG20(20カ国・地域)のエネルギー相の議論では、アメリカの発言が注目された。

だがアメリカは、原油価格は市場が決めるべきだとの立場で、カルテルを禁じる反トラスト法もある。国が企業に減産を命じることは現実的ではない。G20の場でも、採算割れしたシェール企業の投資抑制による「生産量の減少を待つ姿勢」(福田氏)にとどまった。

つまり、OPECプラスが減産しても原油価格が上昇すれば米シェール企業が増産しかねない状況は続く。この構図を問題視していたロシアが、従来のOPECプラスの枠組みでなぜ協調減産に応じたのかは釈然としない。石油業界関係者からは「アメリカが行っている対ロシアの経済制裁の緩和などをトランプ氏が打診し、プーチン氏が協調減産への復帰を決断したのではないか」ともいわれる。

OPECプラスは日量970万バレルの減産を2020年5月から6月末まで行い、その後は徐々に減産幅を縮小する計画だ。だが、コロナ影響による需要減が長引く懸念は拭えず、次回6月10日のOPECプラス会合で、減産幅のさらなる拡大など計画修正を迫られる可能性がある。そのとき、サウジとロシアは引き続き歩調を合わせられるのか。各国の思惑が交錯する中、原油価格の回復を見込める状況にはなっていない。

大塚 隆史 東洋経済 記者

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おおつか たかふみ / Takafumi Otsuka

広島出身。エネルギー系業界紙で九州の食と酒を堪能後、2018年1月に東洋経済新報社入社。石油企業や商社、外食業界などを担当。現在は会社四季報オンライン編集部に所属。エネルギー、「ビジネスと人権」の取材は継続して行っている。好きなお酒は田中六五、鍋島。

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