「子どもと会えない」医療従事者たちの苦悩 アメリカで深刻化するコロナと親権問題
勤務中は防護具を着用し、勤務後はスクラブ(医療着)から着替え、帰宅したら即座にシャワーを浴びる。しかし結局のところ、いかなる患者も直接診ない、というスルドゥコウスキーの要求に応じるのが最も確実だと考えた。
病院も遠隔診療にとどまることに同意してくれた。緊急時にそれ以上何もできないのは悔しかったが、それ以外に選択肢はなかった、とメイヨークインは話す。「争いたくなかった。ただ、子どもたちを取り返したかっただけ」。
直接の診察は行わない、という確約は効いた。次の月曜日、オンラインでの審問が終わると、判事は命令を取り消した。
「この国に欠かせない仕事をしている人への仕打ち」
一方、カリフォルニア州モントレー郡では、11歳の双子と9歳の息子の親権を共有していたリサ・チュウが、消防士の元夫、スティーブン・ビアカンジャに対し一時的な単独親権を求めて緊急の申し立てを行った。ビアカンジャは子どもたちと定期的な面会を許されていたが、面会のたびにウイルス検査を受け、陰性であることを証明しなければならなかった。検査の利用が制限されていることを考えると、実行不可能な要求だ。
裁判所が承認した計画では、子どもたちは通常、約6割の時間を母親と過ごし、残りを父親と過ごすことになっていた。しかし2週間前にビアカンジャの同僚が2人、検査で陽性になると、チュウは父親から子どもたちを引き離したいと考えるようになった。陽性反応が出た2人とそれ以外の消防署員も自宅隔離となった。父親のビアカンジャは、症状が出た場合、あるいは感染者との接触が判明した場合は自己隔離すると請け合った。
しかし、消防署では実際に感染者が出ているうえ、症状の出ない不顕性感染の可能性もある。チュウは元夫が無意識に子どもにウイルスを感染させてしまうことを懸念した。頻繁に自宅に来ている年老いた自分の母親に感染させてしまうおそれもある。「誰にとっても、難しい決断だということはわかっている。でも、私たちにはそうせざるをえなかった」とチュウは言う。
こうした状況が1週間、2週間と続き、ビアカンジャの怒りはどんどん激しくなっていった。「こんな仕打ちを受けるなんて、この国に欠かせない仕事をしている人々への攻撃としか思えない」。
その後、月曜日の夜になって、子どもたちは父親のもとに戻ってきた。判事が一時的な単独親権を求めるチュウの申し立てを退けたからだ。新型コロナ感染の兆候がビアカンジャに現れない限り、これまでの裁判所命令は維持されることになった。
(執筆:Megan Twohey記者)
(C)2020 The New York Times News Servies
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