コロナ危機は現代ネットワーク型社会の怪物だ 戦争もインフレ経済も思想もウイルスと同じ

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20世紀は、疫病の時代だった。周知のとおり、第1次世界大戦の最終段階は、インフルエンザのグローバルな流行と時期が重なっている。致死性の高い型のインフルエンザ・ウイルスが全世界に広まり、何千万もの人、特に若い人々の命を奪った(注:珍しくもこのインフルエンザ株は、20〜40歳ぐらいの人々にとって最も致死性が高かった。流行期間中に、67万5000人のアメリカ人が亡くなったと推定されており、これは、第1次世界大戦のアメリカ人戦死者の10倍に当たる。ヨーロッパで亡くなったアメリカ人兵士のうち、半数がインフルエンザの犠牲者だった)。

アメリカは参戦後、若い男性を大量動員したので、それがインフルエンザの急速な蔓延を助けたことは間違いない。この病気は肺を冒し、事実上、犠牲者を自分の血で溺れさせる。

アメリカ人の最初期の症例は、1918年初頭、カンザス州の陸軍駐屯地で見られた。6月にはインド、オーストラリア、ニュージーランドに広がっていた。2か月後、第2波がマサチューセッツ州ボストン、フランスのブレスト、シエラレオネのフリータウンをほぼ同時に襲った)。

イデオロギーやインフレという疫病

だがそれは、1917年から1923年にかけて発生した唯一の疫病ではない。ロシアのボリシェヴィキ(訳注:ロシア社会民主労働党内でレーニンが率いた多数派)が育んだマルクス主義の変異株も、ヨーロッパ大陸を席巻した。

国家主義の新しく極端な形がヨーロッパのほぼすべての国で、有毒なファシスト運動を引き起こした。これらのイデオロギーは非常に感染性が強かったので、外界から隔離されたケンブリッジのキャンパスにいた幸運なイングランド人さえ感染することがありえた。

経済の疫病もあった。超インフレという疫病で、ドイツだけでなくオーストリアやポーランド、ロシアでも猛威を振るった。こうした疫病に直面した人々は、カリスマ的なリーダーシップと劇的な解決策を示す人々に頼った。ところが、そのようなカリスマに権限を与えた彼らは、我が子の命を代償として差し出すことになった。それ以前の世界は帝国の世界だった。

1914年夏にヨーロッパの帝国の間で起こった戦いは、ナポレオン戦争の後に出現した世界秩序が崩壊した結果だった。その世界秩序は、5つのノードを持つ列強のネットワークをほかのすべての国の上に押し上げた。

戦争そのものも、感染性を持っていた。戦っている帝国はみな、海外に広大な領土を持っていたので、戦争は急速にグローバル化した。イギリスはロシアとフランス、ドイツとオーストリア=ハンガリーという両陣営が戦争を始めるのを止められず、ほかの国々も加わった。

1914年が暮れるまでに、モンテネグロ、日本、オスマン帝国が参戦した。翌15年5月、イタリアは遅まきながら三国協商側につき、ブルガリアは同盟国(ドイツとオーストリア= ハンガリー)に加わった。ポルトガルとルーマニアは、1916年に協商側に回って武器を取った。

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1917年にはアメリカをはじめ、ボリビア、ブラジル、中国、キューバ、エクアドル、ギリシア、リベリア、パナマ、ペルー、シャム(現タイ)、ウルグアイの計12か国が新たに交戦国となった。戦争の最後の年には、コスタリカ、グアテマラ、ハイチ、ホンジュラス、ニカラグアがそれに倣った。

西部戦線での軍事的な行き詰まりが明らかになる以前からすでに、ドイツ政府は戦争に勝利をもたらす決定的な兵器となるはずのものを試していた。イデオロギーの「ウイルス」を解き放って、敵方の帝国を不安定にするという発想だ。

ドイツは味方のオスマン帝国の助けを借り、フランス帝国だけではなく大英帝国の全土でジハードを起こそうとした。この手の策が功を奏するだろうと考えた点で、ドイツは正しかった。ところが、革命を引き起こそうとする彼らの最初の試みは失敗に終わった。

ニーアル・ファーガソン 歴史家

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Niall Ferguson

世界でもっとも著名な歴史家の1人。『憎悪の世紀』、『マネーの進化史』、『文明』、『劣化国家』、『大英帝国の歴史』、『キッシンジャー』、『スクエア・アンド・タワー』など、16点の著書がある。スタンフォード大学フーヴァー研究所のミルバンク・ファミリー・シニア・フェローであり、グリーンマントル社のマネージング・ディレクター。「ブルームバーグ・オピニオン」にも定期的にコラムを寄稿している。国際エミー賞のベスト・ドキュメンタリー部門(2009年)や、ベンジャミン・フランクリン賞の公共サービス部門(2010年)、外交問題評議会が主催するアーサー・ロス書籍賞(2016年)など、多数の受賞歴がある。

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