コロナ危機は現代ネットワーク型社会の怪物だ 戦争もインフレ経済も思想もウイルスと同じ

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ホモ・サピエンスは先史時代に、ネットワークを形成する能力、つまり、コミュニケーションを行い、集団で行動する比類ない能力を持った協力的なサルとして進化し、他のあらゆる動物と一線を画した。

進化生物学者のジョセフ・ヘンリックの言葉を借りると、私たちはたんに脳が大きく毛が少ないチンパンジーではなく、種としての人間の成功の秘密は、「私たちのコミュニティの集団的な脳……にある」という。

私たちはチンパンジーとは違い、教えたり分かち合ったりして社会的に学習する。進化人類学者のロビン・ダンバーによると、新皮質が発達した私たちの大きな脳は、およそ150人という比較的大きな社会集団で機能できるように進化したそうだ(それに対して、チンパンジーの場合は、約50頭)。実のところ、私たちの種は本当なら、ホモ・ディクティアス(ネットワーク人)と呼ばれるべきだろう。

なぜなら、社会学者のニコラス・クリスタキスとジェイムズ・ファウラーの言葉を引けば、「私たちの脳は、社会的ネットワークのために構築されたように見える」からだ。私たちの初期の祖先は「協同せざるをえない採集者」で、食物や住み処、暖かさを確保するために互いに頼り合うようになった。

話し言葉の発達と、それに関連した脳の能力と構造の向上は、この過程の一部である可能性が高く、話し言葉は毛づくろいなどの、類人猿のような活動から進化したのだ。芸術や舞踊、儀式といった活動についても同じことが言えるだろう。

歴史家のウィリアム・H・マクニールとJ・R・マクニールの言葉を借りると、最初の「ワールド・ワイド・ウェブ」は、じつは1万2000年ばかり前に登場したという。無比の神経ネットワークを持った人類は、生まれながらにしてネットワークを形成するようにできているのだ。

ペストの影響はアジアとヨーロッパで異なっていた

ユーラシア大陸全土の住民が、14世紀に黒死病(腺ペスト)によって大打撃を受けた。ノミが媒介するエルシニア・ペスティス(ペスト菌)が原因のこの病気は、ユーラシア大陸の交易ネットワークに沿って伝わった。

それらのネットワークは非常にまばらだった、つまり定住地のクラスターどうしのつながりが非常に少なかったので、極めて感染性の強いこの病気が、1年に1000キロメートル未満のペースでアジアを横断するのに4年かかった。

だがヨーロッパでは、アジアとは違い、人口のおよそ半数が命を落としたため(南ヨーロッパでは、死者の数は人口の4分の3にのぼったかもしれない)、被った影響はまったく異なっていた。

例えば、ユーラシア大陸の西端では東端よりも、労働力不足が深刻だったようで、実質賃金が大幅に上がり、イングランドではそれが著しかった。とはいえ、1500年以降、ユーラシアの西と東で見られた制度上の主な違いは、西のネットワークのほうが東のネットワークよりも、階層的な支配の拘束をあまり受けていなかった点にある。

西側では、一枚岩の帝国が再び興ることはなく、複数の、弱体であることが多い公国が幅を利かせ、法王制度と緩やかに構成された神聖ローマ帝国がローマ帝国の権力の唯一の名残だった。

一方、ビザンティン帝国(東ローマ帝国)は自らを皇帝たちの真の後継者と考えていた。かつて、ローマ帝国の1属州だったイングランドでは、君主の力は著しく制限されていたので、12世紀以降、首都の商人は自治体を組織して業務を自由に管理していた。

東洋では、最も重要なネットワークは親族のネットワークであり、クランの紐帯だった。より個人主義的な西ヨーロッパでは、それ以外の形態のつながり(英語では、そうしたつながりや組織のことを「brotherhood」と呼ぶ。兄弟の間柄も指す言葉だが、この場合には、文字どおりではなく比喩的な意味で使われている)のほうが重要になったと言われてきた。

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